インド音楽とバロックオペラの融合~オペラノース『オルフェウス』(配信)

 オペラノース『オルフェウス』を配信で見た。2022年10月20日に上映された作品で、ガーシントン・オペラの『オルフェオ』同様ローレンス・カミングズが指揮をしている。演出家はアンナ・ヒマリ・ハワードで、モンテヴェルディにジャスディープ・シン・デガン(Jasdeep Singh Degun、読み方はちょっと自信ない)によるインドの伝統音楽を盛り込んだかなり野心的なプロダクションである。

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 バロック楽器にシタールなどインドの楽器が入る編成である。楽団はセットの中におり、序盤は結婚式の音楽を演奏する楽隊としてけっこう周りになじんでいる。着るものやセットは現代的に、現代イギリスの家屋で白人男性のオルフェウス(ニコラス・ワッツ)が南アジア系のエウリディケ(アシュナー・サシカラン)が結婚式を祝ってもらうところから始める。カラフルな風船を持って歌う両家の親戚や友人に囲まれて幸せいっぱいいで、楽団が馴染んでいることもあってミュージシャン一家同士のリラックスした婚礼という雰囲気だ。オルフェウスのオペラっぽい澄んだ声と、エウリディケのインド風な動きのある歌声が影響し合って、違うもの同士がハーモニーを作る完璧な結婚である。花嫁の一家からインドの歌も習って音楽家としてもハッピーな花婿オルフェウスだが、突然エウリディケが事故死してしまう。ここでは花嫁の赤い衣装だけを持って知らせの人が入ってきており、暗くなった舞台に赤いドレスだけが目立って見た目も効果的である。

 赤い衣装を抱いて嘆くオルフェウスは諦めきれずに冥界に行くわけだが、冥界ではエウリディケを殺したヘビを思わせる、くねくねした不穏な動きや音がいろいろなところに組み込まれており、オルフェウスの幸先があまりよろしくないことが暗示される。妻を取り戻したかと思ったがオルフェウスは決まりを破ってエウリディケのほうを見てしまい、妻をまた失うのだが、この場面では丸いスポットライトが新婚の夫妻を照らし、エウリディケの呪文のような歌にあわせてオルフェウスの周りを人々が回り、気付いたらオルフェウスは最初の結婚式をあげた家の前に戻っている…という展開になっている。

 西洋と東洋の芸術を融合させる試みはあんまりうまくいかないことも多いと思うのだが、舞台芸術としてはこれは大変うまくやっているほうだと思う。音楽も演出もあまり違和感がなく、全体的にまとまりがある。神話的な設定のわりには、結婚式が大変なことになった現代の家庭を扱っているみたいな感じで身近なものとして見られるところもいい。