『トップガン マーヴェリック』のわりを食った感じの歴史もの~『ディヴォーション: マイ・ベスト・ウィングマン』(配信)

 『ディヴォーション: マイ・ベスト・ウィングマン』をNetflixで見た。実在するアメリカ軍の黒人パイロットで、非白人としてアメリカ軍史に残る業績をあげたジェシー・ブラウンと、そのウィングマンだった白人のトム・ハドナーをめぐる史実に基づいた作品である。

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 1950年代、トム・ハドナー(グレン・パウエル)と、初めてアメリカ海軍生え抜きの黒人パイロットとなったジェシー・ブラウン(ジョナサン・メジャース)がクオンセット・ポイント空軍基地に赴任してくる。ジェシーは既に家庭があり、仲間とつるむよりも妻と過ごすのを大事にしていたが、キャロル(ニック・ハーグローヴ)やトムとは親しくなる。ところが最初の任務の出張先でキャロルが事故死してしまう。トムと組んだジェシー朝鮮戦争で戦果をあげるが、ジェシーの乗機が墜落してしまう。トムはコックピットから出られなくなったらしいジェシー救出のために急遽降りて救助を敢行するが、努力にもかかわらずジェシーは死亡し、遺体の回収ができないままトムは復員することになる。

 米軍における人種差別と、それにめげずに後進のための道を開いた実在人物に関する真面目な伝記映画である。黒人男性と白人男性の友情を描いているが、白人中心にはなっておらず、わりとバランス良く主人公の2人を描いている。ジェシーの視点から鋭く人種差別を描いているところがけっこうあり、善意に満ちていて人種差別意識は無いのだが、優等生すぎてマイノリティがふだんから気をつけている振る舞いのあり方などについて思い至らないトムがジェシーとのかかわりで変わっていくところをかなりきちんと描いている。トムがジェシーと管制や上官の指示に従うべきかどうかについて話すところや、頭に血が上ってジェシーのかわりにケンカしそうになって少し保護者ぶった振る舞いをしてしまうところ、トムが馬鹿正直な報告書を提出してしまってジェシーに諭されるあたりなどは、軍に限らずアメリカのいろいろなところで黒人のパイオニアはこういう慎重で人間関係に波風立てないようにしつつ身を守る振る舞いを強いられていたのだろう…と思うし、さらに白人でも良い人ほどこのポイントには気付かないのではという気がする(周りの人間も自分同様、公正に振る舞うはずだという思い込みがある)。この映画にも『トップガン マーヴェリック』同様、米軍のリクルート、とくにあまりリッチではないが優秀なマイノリティを軍人としてリクルートするためのプロパガンダ的な要素があると思うのでそこは割り引いて考えないといけないと思うのだが(パイロットとして業績をあげているジェシーを、軍で働いている他の黒人のブラザーたちがロールモデルとして尊敬しているという描写がある)、人種差別に関する描写や、トムとジェシーがだんだん互いを理解しあって最後は友情で結ばれるあたりの描写はかなり丁寧である。

 

 ただ、正直なところ、公開のタイミングがかなり悪かったのではという気がする。クオリティのわりにアメリカで全然当たらなかったらしいのだが、人種差別を描いているところ以外は航空アクション戦争映画で、グレン・パウエルまで出ているし、『トップガン マーヴェリック』と似た要素がありすぎる。とくに最後の救助シークエンスは『トップガン マーヴェリック』にかなり似ているが(そもそも『トップガン マーヴェリック』がこの種の航空救助に関するいろんな実在の事例をヒントにしているのかもと思うのだが)、史実ベースなもんで相当なバッドエンドである。お金を払って映画館で見るなら、史実ベースの悲劇的で真面目な作品よりも、トム・クルーズが大暴れするスカっと航空アクションを見に行く気がするので、そのへんで不運な作品だったのだろう。