結末は人に言わないでください~アガサ・クリスティ『ねずみとり』

 セント・マーティンズ劇場で初めてアガサ・クリスティの『ねずみとり』を見てきた。本当は『ユリイカ』に『ヘイトフル・エイト』論を書く前に見たかったのだが(『ヘイトフル・エイト』はクリスティ的な作品でとくに『ねずみとり』に似てる)、まあ間に合わなかったので…1952年からロングランしている、ウェストエンドで最長公演記録を更新中の芝居である。なんでも一度見たお客さんが子どもや友人を連れて見に来ることにより、ファン層の更新に成功しているらしい。なれ合いにならないようにキャストを変えるなど、いろいろ工夫もしているそうだ。

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 舞台はロンドンまで鉄道で日帰りできるくらいのところにある田舎の山荘で、モリーとジャイルズの若夫婦はゲストハウスを開いたばかりである。お客が次々と到着するが、吹雪で山荘は孤立してしまう。ところがそんな中、山荘に警官がやってきて、ロンドンで起こった殺人事件とこの山荘にかかわりがあるらしいということがわかる。そして殺人が…

 

 戯曲はもちろん読んだことがあるのだが、お芝居を見て初めて、登場人物のミス・ケイスウェルがレズビアンであることに気付いた。これは初演当時から明確にそう演出してあったのか、最近の演出ではっきりさせるようにしたのかはわからないが、まあ今見ると明らかにそうである。あと、ボイル夫人は『そして誰もいなくなった』のミス・エミリー・ブレントに似たキャラクターで、どちらも自分の無責任のせいで人が死んでいるのに態度を改めないというたいそう困った人なのだが、クリスティ作品に出てくるこういう不愉快なおばさまキャラというのは何か背景があるのだろうか。

 

 序盤はけっこうたるかった…というか、何しろ2時間以上ある芝居でボディカウントはたった1だし(舞台が始まる直前にもう1人死んでいるので2と言ってもよいのかもしれないが)、吹雪で閉じられた空間なので動きがやや少ないのだが、けっこう工夫してところどころで笑わせるようにしており、終盤はなかなか面白かった。悪役が豹変するところではお客さんがみんな息を呑んでいたし、カーテンコールでは久しぶりに悪役がブーイングされるのを聞いた(イギリスの舞台では、憎たらしい悪役が上手に演じられた時はカーテンコールで拍手ではなくブーイングをする習慣がある)。最後には「結末を人に言わないで」というお約束のご挨拶があり、52年からやってるのに結末を隠すのは無理では…と思いつつ、まあ毎回ここまでやって一演目なのだろうなーと思った。