観客を陪審員に見立てて~『検察側の証人』

 俳優座で『検察側の証人』を見た。高橋正徳演出によるアガサ・クリスティの戯曲の上演である。一度イギリスで本物のお役所の建物(法廷ではないが、公聴会などを開く場所)で公演を見たことがあるのだが、日本では初めて見た。

 これは通常の劇場での上演なので前に見た時ほど法廷っぽくはないのだが、観客を陪審員に見立てており、法廷場面で陪審員に向けて話すところは全部こちら側に役者が向いて話すので、傍聴人にあたる席で見た前の公演とは一味違ってそこは面白かった。また、ローマイン(永宝千晶)が変装するところはけっこう凝っていて、前に見た公演ほど照明でごまかしていなかったのは良かったと思う。

 あまり本筋とは関係ないのだが、裁判長が「ストロベリーブロンド」とか「ネコブラシ」みたいな言葉の意味を確認するのはいったいどういう意味があったのだろうか…と思った。書かれた当時は新語だったのでお客さんがわからないと思ったのだろうか…また、これも時代背景のせいだと思うのだが、けっこうドイツ人に対するイギリス人の偏見がはっきり描かれている作品だと思った。ローマインは自分がドイツ人で偏見の対象だとよく知っているからああいう行動をとるわけであって、今だとわかりにくいが移民女性に対する差別に関する芝居でもある。