キャバレーが舞台のオールフィメール版『リア王』の翻案~『歓楽街の女王リア』

 下北沢の「劇」小劇場で劇団新劇団『歓楽街の女王リア』を見てきた。ゴブリン串田脚色・演出による『リア王』の翻案である。オールフィメールシェイクスピアである。

 舞台は蕪木町なる歓楽街にあるキャバレーで、女王であるリア(神代知衣)が3人のトップホステスの誰に店を譲るか、愛情を試すようなイベントをする…というところから始まる。それ以降はだいたい『リア王』と似ている…のだが、オールフィメールなので男女の恋愛要素が一切なく、コーデリアに該当するティア(和田望伶)はフランス王妃になるのではなく金座のクラブのトップホステスに気に入られて引き取られるし、エドマンドにあたるマドカ(あなんもえか)をゴネリルにあたるネリル(隅田美保)とリーガンにあたるリリー(クシダ杏沙)が奪い合うのはレズビアン的である。

 このへんで男性の介入なしに女性同士の協力と敵対を描いているのはいいし、華やかな作品ではある。一方でこの種のクラブを実際に支配しているのはケツモチの男性たちであって、そこが何度もセリフで言及されているのに出てこない…というのは、実際は男性に支配されているのにそこにあまりツッコまずに女性だけの権力闘争を面白く描いているみたいな感じに見えるところもあり、ちょっと物足りないと思った。とくに、原作だとけっこうちゃんと戦いがあるはずのところが、「ケツモチの抗争でリアたちがつかまりました」みたいな字幕一枚で済まされてしまっているのはずいぶんすっ飛ばした展開だと思う。また、漠然とネガティヴなドヤ街の描き方は、ドヤ街に対する差別を批判したいにしてもちょっと漠然としすぎでは…とも思ってしまった。