踊る以外は許されない〜『花咲くころ』(ネタバレあり)

 ナナ・エクフティミシュヴィリジモン・グロス監督のジョージア映画『花咲くころ』を見てきた。

 1992年、ジョージアの内戦がまだ終わっていない時代の首都トビリシを舞台に、十代の少女エカ(
リカ・バブルアニ)とナティア(マリアム・ボケリア)の暮らしを描いた作品である。エカは父親が刑務所に入っており、面会することにためらいを感じている。美人のナティアは暴力的な父親がいる不幸な家庭で育ち、ラドという若い男と相思相愛で求婚もされているのだが、突然別の求婚者コプラに誘拐され、結婚することになってしまう。

 もともとはっきりした性格だったナティアが、最初は自分を納得させるように誘拐結婚を受け入れ、だんだん不幸せになっていくあたりが非常にリアルで痛々しかった。エカとナティアを中心とする女性同士の会話はとても自然に撮られていて、ナティアが里帰りして料理の話をするところなどでベクデル・テストはパスする。ナティアの強制結婚や、コプラによるラドの殺害などショッキングな経験をした後、父に面会すると決めてひとりで訪ねていくエカの場面で映画は終わるのだが、この後エカが父親とどういう話をしたのかはわからず、非常にオープンな終わり方になっている(ちょっと私の好みとしてはオープンすぎると思った)。

 一番良かったのは、エカがナティアの結婚式でダンスをするところだ。わりと動きの多いダンスで、通常は男性が踊るものらしい(見ている時、若くて活動的な女性が踊るダンスにしてはぎごちないなと思ったのだが、それはどうも普段あまりやったことのないステップを試してるからっていう設定だからのようだ)。この場面でのエカの表情や動きは非常に印象的だ。親友であるナティアが、他に好きな男性がいるのに誘拐結婚させられてしまい、さらにそれについてナティアがおそらくは無理矢理折り合いをつけて状況を受け入れてしまっているということで、エカはすごいショックと絶望を味わっているはずだ。しかしながら、男性中心的なトビリシで行われている祝賀ムードの結婚式の中、そういうことを口にするのは許されない。エカが自分の感情を表現できるのはダンスだけだ。こういう、男性中心の社会が唯一女に許している自己表現の方法としてのダンスは、『サロメ』の7つのヴェールの踊りや、『人形の家』のノラのダンスなんかと共通するものだ。男性中心的で因習が支配する場所では、女性は声をあげて主張をすることが許されない。踊ることは男性に身体をさらして喜ばせることになるので、結局は男性社会に従属させられることになってしまいかねないのだが、それでも自分の気持ちを表現せずにはいられないとき、女性がダンスをする。こういう複雑な状況を、ちょっとぎごちなく、わざと男っぽい慣れない動きをまじえて踊るエカの表情がとてもよく物語っていたと思う。