時系列の入れ替えによるある種の爽快さ~『スウィング・キッズ』(ネタバレあり)

 『スウィング・キッズ』を見てきた。

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 朝鮮戦争時、北側の兵士で捕虜となった者を収容していた巨済捕虜収容所で、プロパガンダの一種として実施されたタップダンスチームを主題とする作品である。物語の大部分は架空であるようなのだが、捕虜収容所でしょっちゅう血なまぐさい抗争や暴動があったのは史実だそうで、そのあたりに基づいているらしい。

 元ブロードウェイダンサーだったというアフリカ系アメリカ人の軍人ジャクソン(ジャレッド・グライムズ)は、収容所の雰囲気改善・イメージ向上のために所長がぶちあげたダンスチームプロジェクトをまかされる。オーディションをするが、チームで使えそうなのは一応、経験者であるらしいカン・ビョンサム(オ・ジョンセ)とシャオパン(キム・ミノ)だけで、さらにシャオパンは中国人であまり韓国語ができない。そこは強引に売り込んできた優秀な通訳の女性ヤン・パンネ(パク・ヘス)の力でなんとかカバーされるが、収容所中最も優秀なダンサーで、専門教育も受けていてプロレベルで踊れるロ・ギス(D.O.)はアメリカのものに敵意を抱いている革命戦士でチームに入りたがらない。お互いに人種偏見もあり、でこぼこチームだが、だんだんとみんなでダンスをする楽しさに魅せられていき…

 とにかくダンスが楽しく、さらにそれを効果的に撮っている。とくにふだんはアイドルグループで活動しているD.O.演じるロ・ギスは本当に踊りがうまくてプロらしい華があり、そりゃあたしかに収容所でこんだけ踊れたら目立って当たり前だろうと思った。音楽はわざとアナクロな使い方をしており、デイヴィッド・ボウイの「モダン・ラヴ」にあわせてロ・ギスが想像で踊る場面とヤン・パンネが踊る場面が並列されるところはこの映画のダンス描写の白眉だろうと思う。

 前半はかなりコメディタッチなのだが、後半は収容所の現実をつきつけるとてつもなく残酷でショッキングな展開になる。さらにロ・ギスの家族愛にかかわるトラブルなども絡んできて非常に暗い終わり方をする…のだが(ただ、これは悲劇にするためちょっと最後強引すぎるかもと思うところもあった)、そこであまりにもどんよりした終わり方にしないためエピローグ的な場面が付け加えられていて、それが非常に良い効果をあげている。途中でジャクソンとロ・ギスがダンス対決をするところがあるのだが、これは映像で見せられない。え、ここ見せないのか…と思ったら、最後にジャクソンの記憶の中のエピローグとしてこの場面が出てくるのである。ジャクソンの記憶の中にあるものなので美化されているのかもしれないのだが、このダンスシーンは本当に魅力的だ。これだけで芸術の力というものを感じさせる終わり方になっている。