現実離れした楽しいダンス映画と思ったら…『ストリートダンサー』(試写、ネタバレあり)

 レモ・デスーザ監督『ストリートダンサー』を試写で見た。こちらの映画はもともと「ABCD」というダンス映画シリーズの続編として企画されたらしいのだが、権利関係で別の映画になったそうだ。

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 インド映画だが、舞台はロンドンで、登場人物はインド系のダンスチームであるストリートダンサーとパキスタン系のダンスチームであるルールブレイカーズである。サヘージ(ヴァルン・ダワン)はケガをした兄からストリートダンサーを引き継ぐが、イナーヤト(シュラッダー・カプール)率いるルールブレイカーズとライバル関係にある。兄のためにどうしてもストリートダンスのコンテストである「グラウンド・ゼロ」に勝ちたいサヘージだったが、これまでのチャンピオンであるロイヤルズに引き抜かれてしまう。一方、ホームレスの南アジア系移民たちを助けるボランティア事業のためお金が必要なイナーヤトも「グラウンド・ゼロ」に勝って賞金が欲しいと思っていた。

 途中でレストランオーナーのラーム(プラブデーヴァー)が実は歴戦のダンスの達人だったということがわかり、マイケル・ジャクソンオマージュのダンスを踊ってルールブレイカーズの助っ人に…というあたりまでは、いかにも現実離れした楽しいエンタテイメント映画なのだが、ところどころに差し挟まれる南アジア系ホームレスの窮状とか印パ対立の話が妙に深刻だと思ったら、この映画は実際にロンドンでホームレス救済事業をやっているシク教徒のチャリティ団体であるNishkam SWATの活動をヒントにしているそうで、最後にこの団体に関する説明のクリップも流れる。クライマックスのダンスバトルでは、シク教徒の移民で騙された末にホームレスになってしまったミュージシャンたちがダンサーたちに加勢するというちゃんとしたオチもあり、意外と真面目なところもある映画である。また、これも『弟は僕のヒーロー』や『僕らの世界が交わるまで』同様、社会のことに無関心でチャラい男の子と、真面目で社会のためにいろいろ活動している女の子のロマンスでもある(こういうのは世界的に流行っているんだろうか…)。

 とにかくダンスは面白いし、展開も飽きさせないのだが、少し気になったのは印パ対立関係の描写である。インド系とパキスタン系のグループが同じレストランでクリケットを見て双方に対するヤジを…というような描写は誇張してあるものの実際にロンドンとかだとあるのかもしれないので面白いのだが、ムスリムのイナーヤトとヒンドゥー教徒が多いと思われるストリートダンサーを率いるサヘージの和解と協力を象徴する場面で流れる歌がなぜかガネーシャ神の歌詞で、信仰を問わず協力しなければいけないという箇所なのにヒンドゥー教の神様を歌った歌が入るのは文脈にあわなすぎでは…と思ってしまった(何か私がよく理解できていない南アジア特有の文脈があるのかもしれないが)。また、この印パの和解をけっこう大きなテーマとして持ってきたせいで、シク教徒がボランティアで活躍しているというこの映画のヒントになった事実があまりクロースアップされておらず、シク教徒については気の毒な被害者という側面ばかり強調されてしまっているように思うので、そこもちょっとバランスがあったほうがいいのではと思った。