これニール・ブロムカンプとかが映画化すべきだったのでは…『ウェイティング・バーバリアンズ 帝国の黄昏』

 『ウェイティング・バーバリアンズ 帝国の黄昏』を見てきた。J・M・クッツェーの小説『夷狄を待ちながら』を映画化したものである。どことも知れない帝国の周縁の植民地に派遣された民政官(マーク・ライランス)を主人公に、警察官僚で拷問ばかりしているジョル(ジョニー・デップ)の来訪と「蛮族」(バーバリアンズ、「夷狄」)の襲来の予感を描いた作品である。

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 実は私が初めて出した査読論文がこの原作小説についてのもので、原作についてはわりと思い入れがあるのだが、その視点から言うと日本語のタイトルがとにかく良くない。これは「夷狄を待っている」物語なのだが、日本語タイトルは「待っている夷狄」みたいな意味で、夷狄が待っていることになっている。これは実におかしい。

 全体的に映像は綺麗だし、メインの役者陣の演技は良い。ライランスは年のわりにはけっこうイイ男だと作中で言われる人の良さそうな民政官をうまく演じているし、ジョニー・デップが拷問ばかりしている残酷な警察官僚役というのは、たぶん最近のデップの評判の落としっぷりを見ていると実はすごい適役なのでは…と意地悪なことを思ってしまった(なお、本作の監督のシーロ・ゲーラも最近、セクハラで告発されている)。ただ、正直なところこの作品は全体的に寓話みたいな作りであまり映画化しやすい小説ではないのもあり、そのわりに文芸映画っぽい作りになっているので、ちょっとたるくて気取った感じがするところもある。原作に比べるとだいぶ劣る映像化だ。

 それで思ったのだが、これ、たぶんニール・ブロムカンプ監督、シャールト・コプリー主演とかでやったほうがよかったのじゃないだろうか…クッツェー南アフリカの作家で、『夷狄を待ちながら』は植民地主義がテーマのかなり南アフリカ的な作品である。一方でこの古代の木簡が出土するという植民地がどういうところなのかとかはけっこうぼかされており、この帝国が今我々が住んでいる地球と直接つながっている雰囲気があまりなく、ちょっとSFとかファンタジーっぽい。そういう作品を映画化するなら南アフリカ出身で『第9地区』を撮ったプロムカンプとかにSF風に映画化してもらったほうがよかったのじゃないかと思った。

 

夷狄を待ちながら (集英社文庫)

夷狄を待ちながら (集英社文庫)