物足りないところはあるがちゃんとした歴史もの映画~『ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人』(試写)

 『ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人』を見た。主演のジャンヌ・デュ・バリー役のマイウェンが監督もつとめている歴史ものである。

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 ヒロインのジャンヌ(マイウェン)は非嫡出子として生まれたが、母親の雇い主のおかげで教育を受けることができ、美しい娘に成長する。ジャンヌはやがてデュ・バリー(メルヴィル・プポー)の愛人となるが、社交界で目をつけられ、ルイ15世ジョニー・デップ)の愛人に選ばれる。公妾となったジャンヌは宮廷で豪奢な暮らしをするようになる。

 『ナポレオン』に引き続き、わりと『バリー・リンドン』や『マリー・アントワネット』の影響を受けているのではないかと思われる18世紀宮廷ものの歴史映画である。おそらくそこまで史実に忠実ではなく、端折っているところがたくさんあると思われる。デュ・バリー夫人はポンパドゥール夫人と違って高い政治力があったわけではなく、ヒロイン自身はチャーミングで賢い女性ではあるが政治にはほぼかかわらないので、この作品はまったく政治劇ではなく、基本的にややセンチメンタルな恋愛ものである。ジャンヌがあまり宮廷のしきたりに従えない田舎育ちの自由闊達な女性で、宮廷では「下品」とされそうなこういう性格をこの映画はむしろ良い点として提示している。こうしたところがかなり年上のルイ15世に気に入られ、双方好意を抱くようなる展開がわりと丁寧に描かれている。ジョニー・デップがセリフは少ないもののちゃんとフランス語を話して演技しており、宮廷生活で疲れ気味なところに活気をもたらしてくれるジャンヌにユーモラスな顔を見せたり、他の王族のジャンヌに対する冷遇について、一言も話さずにすごい威圧感で怒りを示したり、細かい表情の演技が面白い。また、ジャンヌがデュ・バリーの息子であるアドルフや、黒人のお小姓であるザモールに対して愛情を注ぐ様子を描いており、ジャンヌが子ども好きの優しい女性だということも示されている。ルイとジャンヌに仕える従僕のラ・ボルド(バンジャマン・ラヴェルネ)がけっこういい役で、最初はジャンヌを貴婦人として訓練し、最後まで王の幸せを気遣ってジャンヌにもよくしてくれる温厚な宮廷人である。途中でラ・ボルドが音楽をやっている場面があるのだが、どうも史実では本人は音楽家でもあったそうだ。

 全体的にはちゃんとした宮廷ものの映画だと思うのだが、物足りない箇所もけっこうある。少々のっぺりしていると思えるところや、逆にちょっとセンセーショナルな味付けがあるわりにちゃんと収拾されていないところもある。序盤でいきなりデュ・バリーがDV夫みたいになるところは要るのかな…と思った(何かベースになる史実があるのだろうか?)。その後、とくにデュ・バリーが暴れたりするところはないので、あまり整合性がないと思う。有名なマリー・アントワネットとのいがみあいにもちょっと焦点をあてすぎで、さらに王女たちがそそのかすところも描かれている一方、ジャンヌに味方してくれる女性についてはあまりちゃんと描かれていないので、女の敵は女…みたいな単純な感じになっているのもやや定型的だ。最後にザモールがのちに革命派になってジャンヌの敵になったということがナレーションで説明されているのだが、そのへんの掘り下げも一切ない。