台本がいつできあがったのか心配になるくらいの新しさ~『岸辺のベストアルバム!!』

 下北沢の小劇場B1でコンプソンズ『岸辺のベストアルバム!!』をご招待で見てきた。一応、「春雨」(波多野玲奈)なる若い女性の書いたお話だという枠に入っている…という触れ込みで始まるのだが、コンプソンズのお芝居なのでだんだんこの枠についてもわけがわからないことになってくる。一応、それぞれ季節を表す漢字が名前に入っている3人の母親がふとしたことから知り合って…というような展開が真ん中にあるのだが、他にも14歳の時に殺人を犯したソウ(藤家矢麻刀)とか、歌舞伎町でよくわからない陰謀(ダークマンティコアとか巨大なネズミとか、超自然的な生物が出てくる)のようなものをめぐらせている人々とか、いろいろ出てくる。

 ものすごく時事ネタがたくさん入っている作品で、悪質ホスト問題とか『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』とか、最新の出来事に関する言及もたくさんある(この鮮度はすごいが、この新しさからして台本が直前まで出来上がらなかったのではないかと心配になるくらいだった)。東浩紀宮台真司から名前をとっていると思われる、女子学生と不倫しながらフィールドワークしている学者の東真司(近藤強)とか、オリンピックの映画を作った河瀬直美から名前をとっている女性ドキュメンタリー作家河瀬直子(宝保里実)とか、実在の人物をネタにしつつ大きく変更している(河瀬直子はたぶん他のドキュメンタリー作家もいっぱい入っていてあまり原形を留めてないと思う)キャラクターもたくさん出てくる。

 こういうふうに時事ネタをいろいろ盛り込んでいる一方で、内容はこの全てを非常に諷刺的にとらえている…というか、そういう周りからは内情がよくわからない事件を他人が「物語」化して楽しむことに対する批判を投げかけたお話になっている。これまでのコンプソンズの作品にもそういうところはあったと思うのだが、芸術は現代の出来事に対して関心を持たねば現代的なものになりえないという責任感と、勝手に他人の人生や社会の事件を面白いお話として取り込んでしまうことへの抵抗感の間で悩みながらバランスをとろうとしているところが大変よいと思う。私は最近、日本映画を見ていて、実際の事件をネタに、諷刺をやるでもなくなんか自分の感情にそって描きたいことを描くダシに使うみたいな話がけっこうあるな…と思ってちょっと辟易していたので、こういうアプローチはとても重要なのではないかと思った。