ドラァグショーに取り組む青年とおばあちゃんの交流を描いたカナダ映画~『ジャンプ、ダーリン』

 『ジャンプ、ダーリン』を見てきた。

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 ドラァグクイーンとしての大事な舞台を控えたラッセル(トーマス・デュプレシ)は、ドラァグショーをよく思っていないボーイフレンドと仲違いしてしまい、ステージを放り出してしまう。家を出たラッセルはカナダの田舎に住んでいるおばあちゃんマーガレット(クロリス・リーチマン)の家に身を寄せる。高齢でも頭はしっかりしているマーガレットは孫が帰ってきて大喜びだが、体力は著しく衰えていた。ラッセルはしばらくおばあちゃんの面倒を見ることにするが…

 既にかなりゲイのカップルなどが社会にいる状況を当然のものとして描きつつ、その中で発生するけっこう微妙でなかなか目につきにくい家庭や人間関係の問題を描いているところが斬新でとても興味深い。役者志望だったラッセルが、ドラァグクイーンとしての活動に本腰を入れようとしたためにエリート弁護士であるボーイフレンドにフラれてしまうというあたり、たぶんカナダのゲイカルチャーの中にあるのであろう微妙な階級格差を描いている…というか、ドラァグショーを見て楽しむのはいいが、実際にやっている人はなんかチャラチャラしていてリッチな専門職の人の配偶者にはふさわしくないみたいな偏見があるんだろうな…と思って興味深かった。これはたぶんゲイの男性だからこそ起こる人間関係の問題を描いているのだが、一方でラッセルと家族の間に起こる問題はラッセルがゲイであるということにはそこまで関係なく(多少はあるのだが)、セクシュアリティにかかわらず30歳前後くらいの人によく起こりそうなことがらが描かれている。おばあちゃんのマーガレットも母親のエネ(リンダ・キャッシュ)もラッセルがゲイだということについては(過去はともかく少なくとも今の時点では)一切気にしておらず、長年のボーイフレンドと別れたらしいとか、急に田舎に来たというのはたぶんお金に困ってるんじゃないかとかいうようなことを心配している。こういう点では、ゲイの若い男性の人生がつまづく時には、ゲイだからこそ起こる問題もあるし、セクシュアリティに関係なく起こりそうな問題もあるというようなことを多角的に描いていて、そのあたりはとても現代的だし、丁寧でリアルな作品だ。

 40年代から活動しているベテラン女優クロリス・リーチマンの演技が大変良いのだが、ただ落とし方はちょっとリーチマンの演技力に頼りすぎでは…と思った(これについては私はあまり好きではない)。なお、リーチマンはこの後お亡くなりになってしまっている。ラッセルのドラァグショーもとても良く、最初はなんだか自信がなさそうだったのだが、ラフ・トレードの"High School Confidential"にあわせてショーをやるところなどは田舎で自分と向き合ったおかげで自信がついてきてショーもめきめき良くなっているということがとてもわかるようになっている。主な舞台がオンタリオ州プリンスエドワード郡で、カナダの地方の風景が堪能できるのも良い。