面白い作品だが、イギリスの学園もののアメリカ化は不安だ~『ジェイミー』(ネタバレあり)

 池袋のBrillia Hallで『ジェイミー』を見てきた。ジェフリー・ペイジ演出・振付で、2017年にシェフィールドで初演されたミュージカルの日本初演である。もともとはドキュメンタリーが原作だそうだ。

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 シェフィールドに住んでいる16歳のジェイミー・ニュー(髙橋颯)はドラァグクイーンになりたいと思っている。誕生日に母のマーガレット(安蘭けい)と母の親友レイ(保坂知寿)から赤いハイヒールをもらったジェイミーは、親友のプリティ(田村芽実)に励まされてプロムにドレスで出ることにする。ジェイミーは地元の女装向けショップであるヴィクターズ・シークレットの店主で、かつては名の知れたドラァグクイーンだったヒューゴ(石川禅)に励まされ、クラブでドラァグクイーンとしてデビューすることになる。

 シェフィールドでドラァグクイーンをめざす少年のサクセスストーリーということで、ちょっと『リトル・ダンサー』などにも似た作品である。しかしながらビリー・エリオットの家族とちょっと違うところは、ジェイミーの母は息子がゲイでドラァグクイーンになりたがっていることに全く抵抗を感じておらず、当たり前に受け入れているということだ。シェフィールドはすごく左翼な地域で、さらに最近はLGBTフレンドリーな街らしいので、これは時代の移り変わりが表れているのだろうと思う。一方でマーガレットと離婚したジェイミーの父はまったく息子のことを理解していない。マーガレットはこのことを息子にひた隠しにしているのだが、結局バレてしまい、ジェイミーはひどく落胆するが、結局父親を断ち切る。たぶんこの作品の良いところはここで、家族の中にダメな人がいるならそれは切っていい、家族の絆を理想化しないほうがいい、というのが大きなメッセージなのだろうと思う。

 そういうわけで、いろいろ新しい視点もあり、歌もダンスも楽しい作品だったのだが、少々物足りないのは、最近イギリスの学園もののアメリカ化が著しいということだ。ネットフリックスでやっている『セックス・エデュケーション』はイギリスの話らしいのにやたら学校がアメリカっぽいし、『ジェイミー』はシェフィールドが舞台なのにプロムが大きなポイントになっている。プロムは2000年代以降、アメリカの影響でイギリスでも大きいイベントになったらしいのだが、私は正直、プロムは異性愛中心主義的なイベントで粉砕すべきだと思っている。イギリスの学園ものがどんどんアメリカの映画やテレビ番組に似てくるのは、グローバリゼーションという観点からするとちょっと不安である。

 あと、これは作品とは全く関係ないのだが、Brillia Hallは視界も音響も最悪である。前からちょっと変だとは思っていたのだが、今回座った席はバーの位置がおかしくて視界が遮られるし、複数の人が歌うところではかなり歌詞が聞き取れなくなって、非常に見づらかった。ホワイエの動線などもちょっと疑問があるし、新しいにしてはずいぶんとお粗末な劇場である。