ミステリというジャンルとの距離のとり方が難しい~『ほんとうのハウンド警部』

  トム・ストッパードの『ほんとうのハウンド警部』を見てきた。60年代に初演された一幕物の芝居である。小川絵梨子が演出をつとめている。

 劇評家のムーン(生田斗真)とバードブート(吉原光夫)がミステリ劇を見ているうちに、どういうわけだかだんだん自分たちと芝居の間の区別が…というお話である。ムーンは売れっ子劇場家ヒッグズの二番手に甘んじていて不満、バードブートは出演者のひとりに好意を抱いているらしい、とかいう劇評家たの設定が劇中劇に絡んでくる。基本的にコメディで、ミステリのお約束をいろいろなやり方でパロっている。

 わりと見ていてピンとこないところがあった…というか、この作品は出来の悪いミステリをバカにしているのか、ミステリという(軽視されがちな)ジャンル全体をバカにしているのか、ちょっとわかりにくい演出だと思った。コンテクストを考えると、ウェストエンドで上演するのであれば常に近所の劇場でクリスティをやっているわけだし、お客さんもミステリ劇を見慣れているだろうから、愛をもってミステリ劇のお約束を笑いものにするみたいなことができるだろうし、たぶんそうやって見る芝居なのだろうと思う。しかしながら日本はそういうわけではないので、ミステリ愛なしにミステリを笑うみたいな感じに見えやすい(私はミステリ好きだし、愛なしにジャンル自体を笑ういたいなのはあまり趣味が良くないと思う)。イギリスだとお客さんの知識をあてこんでいろいろもっとひねった演出ができるのかもしれないと思うのだが、そのへん日本だとけっこう難しいだろうし、なかなか上演しづらい作品だと思った。