ほのぼのオタク語りが怒濤の展開へ~『レンブラントは誰の手に』

 『レンブラントは誰の手に』を見てきた。レンブラントの絵画をめぐるドキュメンタリー映画で、監督は『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』と『みんなのアムステルダム国立美術館へ』を撮ったウケ・ホーヘンダイクである。

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 最初はレンブラント大好き人間たちが出てきて、自分のお気に入りのレンブラントの絵画に対するおのろけを語るというほのぼのしたオタク語りみたいな雰囲気で始まるのだが、主要登場人物のひとりである美術商のヤン・シックスが競売でレンブラントの真作であるかもしれない絵画「若い紳士の肖像」を見つけたあたりから話がどんどん大変な方向になっていく。ヤン・シックスの家にはレンブラントがご先祖を描いた絵があり、シックス家はアムステルダムでは有名な名家なのだが、ヤンは家名にのっかるだけではなく自分の鑑識眼を証明したいと、けっこう野心的にレンブラントの新発見作について調査を行う。どうもこの絵は真作らしいということがわかってくるのだが、一方で取引やらお金やらをめぐってこの真作発見がアムステルダム美術界を騒がせる騒動につながっていく。一方でロスチャイルド家所有のレンブラントの大作売却をめぐってフランスとオランダの間でなかなか汚い外交問題が起こり、アムステルダム国立美術館が煮え湯を飲まされる(イベントなどではにこやかにルーヴル美術館とお付き合いしているが、裏ではすっごく不愉快そうだ)というドラマも展開する。

 一方、この映画の中で最も幸せ者なのはスコットランドに住む当代のバクルー公爵である。バクルー公爵は「読書をする老女」という、個人蔵で人目に触れる機会はめったにないがレンブラントの作品の中でも傑作だと言われている絵を所蔵している。私は全くこの絵のことを知らなかったのだが、たしかに極めて独創的な作品で、この映画に登場するレンブラントの中でも最も魅力を感じた。アムステルダム国立美術館は喉から手が出るほどこの絵が欲しいのだが、バクルー公爵はこの絵が大のお気に入りで全く手放す気がなく、一方で絵の飾り方について悩んでおり、結局模様替えを決断する。レンブラント絡みのもめごとから完全に離れ、新しい部屋に絵を移動させて嬉しそうなバクルー公爵はまったく一人勝ちみたいな状況で、この対比が非常に面白い。