帰ってきた仏像男子!!〜『みんなのアムステルダム美術館へ』

 ユーロスペースで『みんなのアムステルダム美術館へ』を見た。

 

 これは世界で最も価値ある絵画が展示されている場所のひとつであるアムステルダム国立美術館の改修騒動を扱ったドキュメンタリー『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』(2008)の続編である。『みんなのアムステルダム美術館へ』は最初の1/3くらいが前作の再編集で、パート1を見ていなかった人でもわかるように作ってある。前作では改修計画が迷走しまくったあげくに館長が辞任する事態になるが、今回は開館にまでこぎつける。

 とにかく嬉しいのは、パート1でキャラの立ちっぷりが尋常ではなかったアジア館の部長であるメンノ・フィツキに再会できることである。前作でも、日本から仁王像が来るということで夜も寝ないで展示プランを練る仏像男子ぶりで観客を魅了していたのだが、今回も仏像男子は健在で、仁王像に最高の敬意を表したいということでお坊さんまで呼んでくる!法衣を着たお坊さんが開館前のアジア館でお経をあげたり、アムステルダムミュージアムショップにたむろしたりしているところはこれこそ文化交流って感じだ。それでいてこのメンノさんは全然気張ったところとか野心がないみたいで、ひたすら美しいものには敬意が払われるべきだと考えて努力している。仏像に対する深い愛だけで文化交流を成し遂げてしまうメンノさんは「我々が考える最強にキュートなナード」なので、美術に興味があったり、あと何か美しいものにハマったことがある人には是非この映画を見てほしい。

 他の人たちも、ドキュメンタリーだというのに実にキャラが立っている。野心満々だが館長になれなかったタコ・ディベッツが正直に「僕じゃなかった…」と心の声をあげたり、オークションで希望の美術品を競り落とせずがっかりしたりするあたりはちょっとかわいそうになってしまう。美術館を家族のように愛する管理人のレオさんも相変わらず頑張っていた。

 ちなみにこの改修計画の主な問題のひとつは「自転車通路をどうするか」ということで、パート1でも美術館側とサイクリスト協会が大もめだったのだが、パート2でもその大もめが再燃する。アムステルダム国立美術館には、正面に城門のような通り抜け通路があり、そこは公道扱いになっていてふだんは自転車が通り抜けられる。美術館側としては、改修にあたって通り抜け用の自転車通路を狭くして、美術館の地下に入れる通路を作りたいと考えていたのだが、そこはオランダ、自転車を足の延長として使っている市民が自転車道の縮小に大反対。交渉があまりにも長引いて美術館側は「オランダは民主主義のマッドハウスだ!」などと言い始める。結局はサイクリスト協会の言い分が通り、新しい地下入り口は作られなかった。しかし、私、夏にはじめてアムステルダム国立美術館に行って思ったのだが、これ、サイクリスト協会の案が通って良かったと思う。変に出入り口を作らないほうが通り抜け感があって見栄えがするし、あと素人考えだが、あの交通量で自転車道を狭くすると渋滞が起きるんじゃないかと思った。美術館側や建築家のほうとしては民主主義の悪い面が…と思っただろうしそれも無理ないが、やはり市民の意見を取り入れたほうがいいものができるんじゃないのかと私は思ってしまった。