アテネのジャズフューネラル~グローブ座『二人の貴公子』(配信)

 グローブ座の配信で『二人の貴公子』を見た。これはシェイクスピアとジョン・フレッチャーの共作で、めったに上演されない作品である。古代のアテネを舞台に、美女エミリアの愛を奪い合う親友2人の戦いを描いた悲喜劇だ。バリー・ラッターの演出で、2018年のプロダクションだ。

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 めったに上演されない作品だけあり、この芝居はあんまり話の筋が通ってない…というか、チョーサーが原作なのだが、主筋が大変におとぎ話風である一方、脇筋が現代人にはなかなか受け入れにくい展開で、このふたつがちゃんと絡んでいなくて芝居としては散漫なところがある。そういう台本の問題からすると非常に頑張っている上演で、音楽と笑いをふんだんに詰め込んで最後まで見られるようにしている。カラフルでわりと時代劇風だがたまに現代風なところもある衣装で見た目を華やかにしており、そこに生演奏の音楽をたくさん入れてダンスも組み込んでいる。とくに前半の葬礼の場面をジャズフューネラル風にし、女性たちがやっと亡き夫の葬儀を盛大に行うことができるようになって悲しい中にも満足感を感じていることを明確にしているのが良かった。

 笑うところもたくさんあり、この芝居の唐突な展開を笑えるものとして演出しているのはいい。牢番の娘を小人症(このへんは言葉の使い方が難しいところだが、英語圏だと当事者団体メディアがdwarfismを使っているのでそれに従う)の女優であるフランチェスカ・ミルズが演じているのだが、歌もダンスもすごくうまいしユーモアのセンスもあり、巧みな演技で笑いと悲しみのバランスを上手にとっている。娘は貴族の女性たちとは違う労働者階級のアクセントで話しており、エミリアとの階級差をはっきり示す演出になっている。アーカイト(ブライアン・ディック)とパラモン(ポール・ストッカー)のエミリア(エロラ・トーチア)をめぐる争いは不条理でアホっぽいものとして描かれている。2人がエミリアに一目ぼれするところでは、さっきまで夫婦みたいに仲良くしていたアーカイトとパラモンがエミリアを見た途端にくだらないケンカを始めるのがおかしいし、終盤で2人が決闘するところではシーシアス(ジュード・アクウダイケ、わりと陽気なシーシアスである)も呆れ気味で、エミリアはさらに困っている。最後はアーサイトの死にショックを受けたパラモンとエミリアが悲しみの中で慰めあうみたいな感じで、あまり辛辣な印象はなく終わっていると思う。