思った以上に『マリー・アントワネット』っぽい~『エリザベート1878』(試写)

 マリー・クロイツァー監督『エリザベート1878』を試写で見た。

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 オーストリア皇后エリザベート(ヴィッキー・クリープス)の1878年を描いた作品である。宮廷での生活は息苦しく、自由を求めるエリザベートにとっては日増しにつらくなっていくばかりだ。エリザベートは抵抗を試みるが…

 エリザベート皇后の人生をフェミニスト的な視点から捉え直すという作品で、史実から離れたところもけっこうある(個人的には初期映画に関するシークエンスは全部架空ということで、けっこう面白かったのにちょっとがっかりはした)。全体的にヴィッキー・クリープスの演技を見る感じの映画で、エリザベートが感じているなんとも言えない焦燥感や憂鬱をエネルギッシュかつ細やかに表現している。エリザベートは魅力的な女性なのだが疲れ切っており、お洒落や美貌が全くエンパワーメントにつながらないというかむしろ女性を苦しめることになるというがリアルで、表面的にはキラキラ女子代表みたいに受け取られそうなエリザベートを題材にそういう話を作るのはとても現代的で良いと思う。結末はちょっとびっくりするようなものである。

 全体的に、思った以上にソフィア・コッポラの『マリー・アントワネット』に似た感じなのに驚いた(監督はそう言われたくないだろうが)。虚実とりまぜた感じとか、熱っぽい場面でもなんとなく冷たく引いた感じのある撮り方、お洒落が全然幸せにつながらない様子とかが似ている。ただ、『マリー・アントワネット』よりは明確にフェミニスト的というか、スタイルや雰囲気重視でないぶん、言いたいことがはっきりしている映画だと思う。しかしリドリー・スコットの『ナポレオン』もなんとなく予告が『マリー・アントワネット』っぽいし、実はけっこうあの作品は影響力があったのだろうか…

 なお、作品の内容には関係ないものの、この作品は出演者のひとりが児童ポルノ関係の容疑でかまり、その他にもいろいろ関係者(監督とか主演女優ではない)によるハラスメントスキャンダルが取り沙汰されている。この種の映画でもそんなことが起こるとはちょっとビックリだ。オーストリア映画館も日本同様、女性にとってはかなり働きにくいところなのかもしれないと思ってしまった。