けっこうちゃんとしたボクシング映画~『アウシュヴィッツの生還者』(試写)

 バリー・レヴィンソン監督『アウシュヴィッツの生還者』を試写で見た。実在するホロコーストサバイバーでボクサーだったハリー・ハフトをモデルにした伝記映画である。

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 ハリー(ベン・フォスター)はアウシュヴィッツ収容所を生きのびたサバイバーで、アメリカでボクサーとして活動していた。ハリーはホロコーストのせいで引き裂かれた恋人レアを忘れられず、自分の名前が知られるようになればレアが見つかるかもと期待していたが、なかなかそうはいかない。ハリーはミリアム(ヴィッキー・クリープス)と結婚し、引退して新たな人生を歩もうとするが、収容所のトラウマのせいでなかなか平穏な暮らしに適応できずにいた。

 ハリーはアウシュヴィッツでの壮絶な経験をなかなか人に話せず、抱え込んでしまってPTSDに苦しんでおり、この記憶がフラッシュバックで表現される。この体験というのが非常に壮絶なもので、収容者同士を競わせてそれを管理者が楽しむというようなやり口なので、ハリーはひどいサバイバーズギルトを抱えている。そのために妻や息子にうまく対応できない。それが過去と向き合うことで平穏な日常を取り戻す契機がやってくる…ということで、PTSDとの戦いと解放を描いた作品である。主演のフォスターの演技が非常にしっかりしており、迫力がある。一方でチャーリー(ダニー・デヴィート)が出てくるあたりはけっこううちゃんとしたボクシング映画でもある。