公開手術室のボディホラー~『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』(試写)

 デヴィッド・クローネンバーグの新作『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』を試写で見た。

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 舞台は近未来の人間社会である。人の体にはいろいろな変化が発生しており、人間は痛みを感じなくなっている。体内にやたら臓器ができてしまう病気を抱えているパフォーマンスアーティストのソール(ヴィゴ・モーテンセン)は、相棒のカプリース(レア・セドゥ)と組み、カプリースが臓器にタトゥーをして摘出手術をするというパフォーマンスで人気を博していた。ところが臓器登録所なる部署がこの2人に目を付ける。

 

 設定だけで実にクローネンバーグらしくへんてこりんなボディホラーである。手術を人に見せるというのは、昔は大学の公開手術室などで行われていたということもあり、まあけっこうオーソドックスな発想とは言える。一方でけっこう不思議なのが、映画の中でも言及されているように、実際に切除手術を行うカプリースではなく、勝手に体に臓器が増えるだけのソールのほうが創造性の源みたいに扱われていることだ。摘出をするカプリースのほうが技術を使っているという点でアーティストなのでは…と思うのだが、一方で昔は患者がないがしろにされて手術や治療をする医者のほうばかりが注目され、患者のプライバシーなどがあまり尊重されていなかったことを考えると、患者が自分の症状をクリエイティヴィティと見なすようになるこの逆転は、病理化とは何かみたいなことを問い直すもので、ちょっと面白いのかもしれない。