フランスの大学怖い〜『RAW〜少女のめざめ〜』(ネタバレあり)

 ジュリア・デュクルノー監督『RAW〜少女のめざめ〜』を見た。

 厳格なヴェジタリアンの家庭で育ったヒロインのジュスティーヌ(ギャランス・マリリエ)は獣医を目指し、姉のアレックス(エラ・ルンプフ)と同じ大学に入る。大学ではゲイの青年エイドリアン(ラバ・ナイト・ウフェラ)と同室になり、血を浴びせたり動物の臓器を食べさせるなどの新入生しごきにあう。そんな中、初めて肉を食べたジュスティーヌは肉への渇望を募らせるようになり…

 一応、食人ホラーなのだが、描写はショッキングなものの、内容としては大学に入って大きな変化を経験し、好むと好まざるとにかかわらず自分が何を求めているのかに気付いてしまった若者の姿を描いていて、構成としてはよくできた青春ものである。ジュスティーヌの場合、自分が求めていたものが人肉だったとわかるということで極端なのだが、新しい環境でどうすればいいのかよくわからず、とんでもない真似をしたり、不用意なふるまいで他人を傷つけてしまったりするというようなことは広くいろいろな人に起こることだ。広く若者に起こりうる事態を誇張して象徴的に描いていると言える。

 ただ、全体的に、女性のサディズムを全部引き受けてくれる天使のような男性がやたら出てきて、ご都合主義的だという気はした。とくにゲイのアドリアンは、まるでヒロインを助けてあげるためだけに出てきたようなキャラクターで、役者の演技は良いのだが人物としてはちょっと都合よすぎだと思う。アレックスとジュスティーヌの会話などはまあまあよく書けており、ベクデル・テストもパスする。

 あと、実はこの映画で一番怖いのは、食人描写よりもフランスの大学のとんでもないしごき描写のほうではと思う。新入生が先輩から受ける通過儀礼がとにかくひどく、あまりにもマッチョで辟易した。ジュスティーヌがうさぎの腎臓を食べさせられてアレルギーになる描写があるが、新入生をたたき起こして病人やけが人が出てもおかしくないような無理なことをたくさんさせる。いくらなんでもホラー映画なので誇張されているのだろうとは思うが、個人的には食人よりこっちのほうがえぐかった。