「カレン」大集合ホラー~『ソフト/クワイエット』

 ベス・デ・アラウージョ監督『ソフト/クワイエット』を見てきた。

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 アメリカの田舎町で教師をしているエミリー(ステファニー・エステス)は「アーリア人団結をめざす娘たち」なる白人至上主義的な女性の会を作り、教会で第1回のミーティングを開催する。全て白人からなる6名の女性陣は多文化主義に対するいろいろな不満を語り合う。女性陣の一部はエミリーの家に行くことにするが、途中でメンバーであるキム(ダナ・ミリキャン)の店に寄ったところ、そこでアジア系の姉妹とトラブルになる。エミリーたちは姉妹の家に忍び込んでイタズラをすることにするが、そこに姉妹が帰宅してくる。切羽詰まった女たちは暴力行為に及ぶが…

 セントラルパークで起こったバードウォッチング事件に触発されて作られた映画だそうで、いわゆる「カレン」っぽい白人女性が集まって自分たちの人種偏見を共有したらどうなるか…というような話である。ところがこの映画に出てくるカレンたちの間にも微妙な差異があるところがポイントで、エミリーは教師でミドルクラス出身のけっこうインテリらしいのだが、自分だけが使える車を持っていないみたいに見えるし、兄弟が刑務所に入っているし、不妊で悩んでいる。一方でレスリー(オリヴィア・ルッカルディ)はどうもワーキングクラスの出身っぽい感じで、刑務所を出てきた前科者だ。いっしょくたに「カレン」と言っても階級とかバックグラウンドが違う人たちが集まっていろいろな悩みを共有することで一気に過激化してしまう…というような様子がなんちゃってワンテイクでとれられており、大変後味の悪いホラーである。

 皮肉なのは、この映画で出てくる白人女性たちは、自分たちが目の敵にしているものから相当な恩恵を受けているということだ。エミリーたちはフェミニストが嫌いだが、登場する女性たちがやっている、会合で悩みを共有するコンシャスネスレイジングみたいな手法というのは実はかなりの部分、フェミニストが広めたものだ。冒頭で移民の女性が学校の清掃員として働いているところからもわかるように、アメリカの暮らしは移民してきた労働者の仕事なしには成り立たず、この映画に出てくる女性陣もそういうものに頼っている。他にも食べ物とか音楽とか、たぶんこの人たちは非白人の文化を摂取せずには暮らせないくらいそのへんに日常的に触れているはずなのに、自分が抱えている本来は全く関係ない悩みを移民とか非白人とかユダヤ人、フェミニストのせいにしている。そうした無責任さ、白人が抱えている特権を当然のものとする態度に対して容赦ない視線を向ける作品である。