カードゲームをダンスにするのは難しいな…『カジノ・ロワイヤル~我が名はボンド~』

 東京宝塚劇場で『カジノ・ロワイヤル~我が名はボンド~』を見てきた。イアン・フレミングの小説の舞台化で、脚本・演出は小池修一郎である。

 舞台は1968年、5月革命後のフランスである。MI6の腕利き諜報員であるジェームズ・ボンド(真風涼帆)はKGBの資金状況に打撃を与えるべく、ソ連の協力者と思われるル・シッフル(芹香斗亜)とバカラで戦うことになる。一方でボンドはロシアのロマノフ家の女相続人で、学生運動に身を投じているデルフィーヌ(潤花)と出会うが、実はル・シッフルはデルフィーヌが相続することになっているティアラと財産に目をつけていた…

 基本的に小説ベースで映画の例のテーマ曲などは使われておらず、またお話も宝塚風のロマンスものになっていて、小説とか映画から想像する007とはかなり別物である。冒頭で時代背景となる冷戦についての簡単な解説があり、ご丁寧にずっとその冷戦解説地図を模したパネルがセットで使われている。ぐんぐん勢いで推すような感じの上演で、笑うところもけっこうあり、気楽に楽しめるところは多い。 私が見た回はパルシステム貸し切り公演だったので、おそらく今回のみと思われるパルシステムネタのジョークもあった。クリミアに平和が訪れればいいのに…みたいな会話がやたらと出てくるのは、ロシアがウクライナを侵略している昨今の政情に婉曲に触れているのかもしれない。全然退屈はしないし、楽しい作品だ。

 ただ、個人的には衣装がけっこう気になった。全体的にあんまり衣装が60年代っぽくないし、もっと良くないのは女性の衣装にあんまりオシャレな感じがしないことだ。ヒロインのデルフィーヌがかなり格式の高そうなカジノにミニドレスで出席しており、60年代のヨーロッパの社交場にミニスカートで入ることなんてできたっけ…?と思った。1965年にモデルのジーン・シュリンプトンがオーストラリアの競馬場にミニドレスを着ていっただけで大スキャンダルになったことがあるくらいなので、ドレスコードのあるカジノでそれは無理なのでは…?という気がする。時代考証を除いても、デルフィーヌのミニドレスはああいうはっきりした性格の女性が着るにはもっさりしているように思ったし、カジノの場面の女性陣の服は全体的になんだかイマイチである。また、ル・シッフルが経営しているクラブのショーガールたちがみんな紫っぽいドレスを着ているのだが、これもデザインがそんなに可愛くないし、ソロで歌うのでもっとずっと華やかなものを着ていいはずのアナベル(天彩峰里)が他の女性陣とあまり変わらない目立たないドレスを着ているのも残念だった。60年代が舞台なら、今では着られないようなレトロではじけた可愛いものをタカラジェンヌに着せるチャンスもあるはずなのに、ちょっと残念だ。

 あと、カードゲームをダンスにするのは難しいな…と思った。そもそもバカラについて知識がないのでルールがあんまり理解できないまま見ていたのだが、一応バカラ対決の場面はダンスで表現される。しかしながら、何だかよく分からないまま、いつのまにかボンドが勝ってしまっており、場面を盛り上げようとしてかえって手こずっている気がした。