音楽は魅力的だが、台本に問題があると思う~グラインドボーン『ベアトリスとベネディクト』(配信)

 グラインドボーン音楽祭の『ベアトリスとベネディクト』をMarquee TVの配信で見た。ベルリオーズのオペラで、『から騒ぎ』が原作である。2016年の上演を撮影したもので、初めて見る作品だ。

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 白から黒までの色調で統一されたグレースケールみたいな世界に箱が置いてあるというセットが特徴である。マグリットの絵か何かにありそうな感じで大きな箱の中にたくさん人が立っていたり、箱を上げると鏡を使っただまし絵みたいな試着室にウェディングドレスが置かれているのが出てきたり、ビジュアルとしてはかなり面白い。着ている衣装もグレースケールで統一されているが、エロー(原作のヒーローにあたる)が白っぽい色の衣装を着ているところでは侍女のウルスル(アーシュラにあたる)が灰色っぽい服を着ていたり、色の対比はわりとはっきりある。ただ、ベネディクトの立ち聞きの場面とかでこの複雑なセットが機能しているのかどうかはちょっと疑問もある。

 そしてこれは私の意見なのだが、原作と比べると話の切り方があきらかにおかしくてつまらなくなっていると思う。「私が考えるダメなテキレジ」の典型例みたいな感じだと思った。まず、原作のヒーローとクローディオの恋路が邪魔されるという陰謀が完全にカットされており、そのぶんスリリングな展開がなくなって間延びした単純な話に見える。さらにエローとウルスルがベアトリスを引っかける場面が舞台上では上演されないので(説明があるだけ)、女性陣が思いっきり人を笑わせてくれる原作の重要場面がなくなっている。ベアトリスが引っかけられて恋に落ちる爆笑場面がないのに、恋に並んでいるベアトリスの歌はあるので、なんだかずいぶんとベアトリスがうじうじと恋に悩んでいるだけの女性に見える。笑えるところは男性陣が全部持って行って、女性陣の見せ場がない。そのわりに原作には出てこない音楽家たちの場面が挿入されており、これは要らないのではと思った。音楽は全体的にとても楽しくて素敵なので、このへんの台本の問題はとても残念だ。