ジュリー・テイモア監督、ヘレン・ミレン主演『テンペスト』

 ジュリー・テイモア監督、ヘレン・ミレン主演『テンペスト』を見てきた。原作戯曲では男であるプロスペローにヘレン・ミレンをキャスティングし、陰謀により追放されたミラノ公爵夫人で魔女であるプロスペラが主人公になるという改変が施してある。

 で、ミレンのプロスペラは素晴らしい。しかしながらそれ以外はあまり見所がなかったな…プロスペローの役をミレンがやるというだけですんごい面白くなりそうなもんなのだが、全体的にミレンの芝居に頼りすぎていてその他がちょっと…すごく舞台っぽい演出が多くていかにもテイモアっぽくはあるのだが、その舞台っぽさがちょっと今回は足を引っ張ってしまった感じ。
 まず、絶海の孤島を舞台にしているわりには映画らしい風景の広がりが感じられない。たぶんもうちょっと空撮とか使って島を引きで撮るとか、花とか海とかをふんだんに盛り込んで色彩設計に気を使った場面を入れたほうが映画的な空間の美しさが引き出されたんじゃないかなと思う。あと特殊効果があまり生きてないな…舞台だと吊り物+台詞だけで処理できるようなところにCGを使っているのだが、若干見栄えに疑問がある。あと、『タイタス』ほどはしっちゃかめっちゃかにしていない感じで結構小さくまとまってしまっているのもよくないかも。


 ミレンの他にはクリス・クーパーとかアラン・カミングとかベン・ウィショーが出てて芝居はそう悪くないのだが、キャリバン役がジャイモン・フンスゥなのがちょっとどうかと思ったな。ジャイモン・フンスゥはいい役者だと思うのだが、見た目がイマイチぱっとしないんだよね…キャリバンは液状化した舗装道路みたいな質感の皮膚に牛のような模様をした半人半妖怪のような生き物になっているのだが、かなりフンスゥのコワモテ顔に頼った造形でもうちょっとヴィジュアルに気を使えよっていう気がした(舞台なら通用するヴィジュアルだと思うが)。あとキャリバンだけ黒人なのもどうかと…もとの戯曲の植民地主義的なところを強調したかったのかもしれないとは思うのだが、それにしてはあまりにも演出がフツーすぎて陳腐な気がした。それからラッセル・ブランドがミスキャストだな…ラッセル・ブランドってジャック・ブラックとかと同じでちょっと個性が強すぎるので、役によっては「なんじゃこりゃ」みたいなことになると思うんだけど今回のトリンキュロー役は結構そういう感じ。トリンキュローとキャリバンが出会う場面はなんかミスキャストの2人がどかどかやってるぞーみたいな感じで多少つらかった(ただ、あれでも舞台ならなんとかなる気がするのだが…)。


 そんなわけでジュリー・テイモアヘレン・ミレンが組んだにしてはちょっと期待はずれな感じ。ただし、魔女プロスペラのヘレン・ミレンが見られるだけで払ったお金の元は取れると思う。


 なお、『テンペスト』は限定公開なのでなかなか行く機会がとれず、やっと家の近くで上映されるようになったので今日ポートベローマーケットのエレクトリックシネマ(「電気館」)っていうところで見てきたのだが、ここは100年前に建てられた映画館だそうで、椅子の座り心地とか内装の雰囲気の良さがシネコンの比じゃない。


 ちょっと高いけど、こういう映画館いいねー。