クリストファー・プラマー演じる温かいプロスペロー~ストラトフォードフェスティヴァル『テンペスト』(配信)

 ストラトフォードフェスティヴァルの『テンペスト』を配信で見た。デズ・マカナフ演出の2010年のもので、クリストファー・プラマーが主演である。

https://www.youtube.com/watch?v=9Y5G_V2x5oU

 わりと近世風な衣装で、あまり奇をてらわない正攻法の演出である。プラマー演じるプロスペローがかなり温かみとユーモアのある性格なのが特徴で、たしかに積年の恨みでつらそうなところはあるのだが、このプロスペローなら穏やかに過去の怨念を捨てて赦しの心を示しそうに見える。途中の婚約を祝う幻影を見せるところでは自分でハープシコードを弾いていて、なかなか芸達者で楽しい人物だ。娘のミランダ(トリシュ・リンドストロム)に昔のことを話すくだりも良いお父さんという感じで、冗談も交えていて、わりと他のプロダクションでは起こらないところで客席で笑いが起きていた。小さく可愛らしい妖精であるエーリアル( Julyana Soelistyo)とプロスペローの間の関係もかなり親密なもので、プロスペローは子供を手放したがらない父親のように振る舞っているように見える。この2人の間柄を示すために空気を象徴する羽根が使われており、エーリアルの姿が見えなくても羽根が飛んでくればプロスペローがそこにエーリアルがいることを感知できる。最後にプロスペローが羽根を渡して船でエーリアルが去って行き、さらにその後ろにキャリバン(ディオン・ジョンストン)が出てきてやはり別れを示唆する会釈とアイコンタクトを交わすところでは、プロスペローはとても寂しそうである。

 そういうわけでプロスペローの人間味や周りの人間関係を丁寧に描いた良いプロダクションなのだが、10年前の撮影だからなのか、イマイチ舞台の全体を綺麗に見せる撮り方が実現できていないところがある。最初の暗い舞台なんかは何がなんだかよくわからない撮り方になっているし、全体にもう少し人の動きをダイナミックに撮ってほしいと思うところもあった。婚約を祝う幻影のショーの場面やラストなども、もうちょっと工夫できそうな気がする。