ストラトフォード・フェスティヴァル『テンペスト』を配信で見た。アントニ・チモリーノ演出で2018年の上演されたものである。
セットは森や林を連想させるような感じだ。背景に木の根のような蔓のようなものがたくさんねじねじと絡まり、部屋の入り口のようなゲートを作っているという構造物がある。このねじねじの上にプロスペロー(マーサ・ヘンリー)が座ったり、蔓の中から妖精たちが顔を出したり、おとぎ話っぽいヴィジュアルだ。エーリアル(アンドレ・モリン)が魔法を使うところではこのねじねじのゲートの上に目が光るハーピーが現れたり、マスクの場面ではここからクジャクの衣類のパフォーマーが幻影として出てきたり、手の込んだ特殊効果も使われている。キャリバン(マイケル・ブレイク)は腕に貝殻がたくさん付着したちょっとフジツボみたいな容姿で、海の生き物っぽい。
音の演出にちょっと特徴があり、歌がかなり考えて効果的に使われている。プロスペローやエーリアルが魔法を使うと電撃みたいな音が出るという設定になっている。プロスペローがミランダ(メイミー・ズウェトラー)とファーディナンド(セバスティアン・ハインズ)に幻影のマスクを見せるところでは、カラフルな衣装を着たパフォーマーたちが星のささやきみたいなキラキラした音楽にあわせて動き回る。
このプロダクションの特徴はプロスペローを女優のマーサ・ヘンリーが演じており、ミランダとは母と娘にあたるということだ。このプロスペローは娘と多少ふざけるなどふつうのプロスペローに比べるとわりと権威主義的でない母親なのだが、一方で威厳もあるし、心の中には恨みもある。ミラノで欺されたせいでどうも男性をあまり信用していないようなところがあり、ファーディナンドをやたら試そうとするのも、そうした警戒心から来るものではないかと推測できる。ヘンリーはこういうプロスペローを非常に奥行きをもって演じている。ミランダは闊達そうな性格で親しみやすく、ファーディナンドのかわりに切り株を運ぶなど、活動的だ(このミランダが木を運ぶ演出というのは最近よく見るので流行りなのだと思う)。さらに優しい性格で、最後にミランダがキャリバンを少し気遣う描写がある。