アメリカのつらい家族劇~『詩人かたぎ』(配信)

 アイリッシュレパートリーシアターの『詩人かたぎ』(A Touch of the Poet)を配信で見た。ユージン・オニールの戯曲をアメリカのアイルランド関連戯曲専門劇団がソーシャルディスタンシングを行いながら撮影したものである。

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 舞台は1828年の7月のある日、マサチューセッツ州にあるパブ(アメリカなのでパブと言わないのかもしれないが、とりあえず人を泊めたりお酒やごはんを出す店)である。主人であるアイルランド系移民のコーネリアス・メロディ(ロバート・クッチオーリ)は見栄っ張りで自分がさも立派な人間であるかのように装っているが、実際は一家は火の車である。妻のノーラ(ケイト・フォーブズ)はそれでも横暴な夫を愛しているが、娘のセアラ(ベル・エイクロイド)はアメリカの現代娘で父をあまりよく思っておらず、ボストンの富裕な家の息子であるサイモンとの結婚を目論んでいる。

 役者は全員別撮りであとで合成したらしいのだが、なにしろしょぼくれた居酒屋を舞台に繰り広げられるちょっと密室的な芝居なので、背景が書き割りっぽくてもそこまで違和感がないというか、ちょっと変な感じでもまあ許そうかという気になれる。演技のほうも別のところで撮ったとは思えないくらいしっかりしている。映像編集はすごく大変だったと思われる。

 内容はいかにもユージン・オニール的なアメリカの家庭悲劇で、私が苦手なつらい感じのお話である。メロディ家の親父さんが今風に言う有害な男らしさまっしぐらな人で、ひとりで家族全員を不幸にしている。何も知らずにサイモンのお母さんに性欲丸出しでカマをかけてしまうあたりは見苦しいことこの上ないし、終盤の自爆というか愛馬を撃ってしまうあたりのイヤな感じもすごい。背景にはアイルランド系移民に対する差別とか、自由の国であるはずのアメリカにも厳然と存在する階級差別なんかがあるので、アメリカが見ないことにしておきたい弱点を掘り下げた芝居とも言える。とにかく最初から最後まで非常につらい話で私は苦手なのだが、まあアメリカ人は本当にこういう「お父さんのエゴがつらい」みたいな話が好きだなと思う。