なんでダウジングなんだよ~『ミナリ』(ネタバレあり)

 『ミナリ』を見てきた。

www.youtube.com

 1980年代初頭にカリフォルニアからアーカンソーに移住した韓国系の一家を描いた物語である。父のジェイコブ(スティーヴン・ユァン)は韓国系移民向けの野菜を栽培する農場を作って成功することを夢見ているが、暴走しがちで妻のモニカ(ハン・イェリ)はあまり農場のことを是認していない。衝突しがちな夫婦は、心臓が悪い幼い息子デイヴィッド(アラン・キム)の面倒を見てもらうため、韓国からモニカの母スンジャ(ユン・ヨジョン)を呼び寄せるが…

 リー・アイザック・チョン監督の実際の経験に基づいた映画だということで、たしかに細部に今までの映画ではあまり見られなかったようなリアリティがある非常によくできた作品なのだが、一方でこれは韓国系の移民が主人公とはいえ、系統としてはかなり王道のアメリカ家庭劇だと思う。予告編や批評を見た時からなんとなく予感していたのだが、この話はアーサー・ミラーとかユージン・オニール、あるいはアフリカ系だとオーガスト・ウィルソンとかが書くような、強いこだわりを持っているお父さんを中心に家族が振り回される深刻な家庭劇だ。アメリカの芸術家はこういう話が大好きだし、これがアメリカで高く評価されているのもわかる。

 しかしながら、私はそもそもこういう系統のアメリカのお父さん家庭劇みたいなものがイマイチ得意ではない。どこで笑えばいいのかわからないし、また女性キャラクターが添え物みたいになりがちだからである。この作品では結局妻であるモニカの悩みが解決されずに終わるし、デイヴィッドに比べると姉のアン(ノエル・ケイト・チョー)の描写が薄く、たとえばおばあちゃんが病気になった時にアンがどういう友達のところに泊めてもらったのかとかは描かれていない。また、韓国から来たジェンダー規範にあまり従っていない「おばあちゃんらしくない」おばあちゃんの行動はこの映画の中ではユーモアがあって数少ない笑えるポイントなのだが、このおばあちゃんのせいで農場が焼けるという展開も疑問…というか、「おばあちゃんらしくないおばあちゃんというのはこういう失敗をする」みたいな結末で、なんか見ていてものすごくイライラした。そのへん、監督の経験に基づいた展開なのかもしれないし、まあリアリティという点では評価できるのだが、個人的に面白いと思えるかという点では別である(同じアメリカの東アジア系監督の映画という点では、『フェアウェル』もたぶんリアルという点ではリアルだったのだろうが、個人の経験をそのまま映画にしているだけで私は全く面白いと思わなかった)。

 あと、これも完全に個人の趣味なのだが、ダウジングに関するところは決定的に受け入れられなかった。最初、ジェイコブはアーカンソーでやっているダウジング(棒を使って水脈を探すおまじないみたいなやつ)をバカにし、韓国人はこんなことはやらないと言って、理性にもとづく判断で方向や土地の傾きなどから水のありかを探して成功するのだが、その水が途中で涸れてしまう。最後、火事で一度大失敗したジェイコブは地元のダウジングにすがるようになる。韓国系の移民が地元になじむ方法が、科学的な思考を捨てて怪しいおまじないにすがるようになることだとは、なんだかずいぶんひどい展開だと思うし、この後またジェイコブは失敗するだろうなとしか思えない。全体的にこの作品はキリスト教への言及もたくさんあったりしてスピリチュアルな感じがあるのだが、ニセ科学おまじないまで肯定しなくていいと思う。