ウェストコーストのルーツを探して~『エコー・イン・ザ・キャニオン』

 『エコー・イン・ザ・キャニオン』を見てきた。 

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 ローレル・キャニオンの音楽を扱った音楽ドキュメンタリーだが、少し前に公開された『ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック』とは違う映画である。ジェイコブ・ディランがさまざまなアーティストたちとのデュエット形式で行ったウエストコーストロックのカバーライヴ&アルバムの制作過程に、60年代にローレル・キャニオンで活動していたアーティストたちのオーラルヒストリーを組み合わせた作品である。ライヴでとりあげる曲について、その制作にかかわったアーティストたちに当時のことをきき、それを含めて曲を作っていく。

 とにかく出てくるアーティストたちがすごく、バーズやバッファロー・スプリングフィールドのメンバー、ジャクソン・ブラウンエリック・クラプトンリンゴ・スターなど当時を知る大御所たちから、ライヴに出演するフィオナ・アップルやベック、ノラ・ジョーンズなどのもっと下の世代のミュージシャンまで、有名音楽家が目白押しである。ジェイコブはイギリスまで取材に行っている。トム・ペティはこのインタビューをとった後わりとすぐにお亡くなりになってしまったので、一種の遺作と言える。こういうミュージシャンたちとのクリエイティヴな調査や議論を通して、ウェストコートロックの影響力に迫りつつ、カバー曲を仕上げていく。

 全体的に、ジェイコブがボブ・ディランの息子だというのはこの映画ではけっこう大きい気がした。何しろボブ・ディランに声が似ているのだが、もっとメロディアスな歌い方が得意なので、60年代の曲をカバーするとかなりよくはまる。そこにフィオナ・アップルとかベックとか、ちょっと感じの違う声を持ったアーティストが絡んでくると面白い味わいが出る。フィオナ・アップルの「イン・マイ・ルーム」などはとても内省的でまるでフィオナ自身の曲みたいにも聞こえるし(フィオナ・アップルビーチボーイズの影響があったのか…と思ってしまった)、ベックのウェストコースト的ルーツもよくわかる感じになっている。