ダブリンのゲイトシアターの有料配信で、フランク・マクギネスの新作The Visiting Hourを見た。カトリーナ・マクローリン演出で、父役のスティーヴン・レイと娘役のジュディス・ロディの二人芝居である。ダブリン時間で無観客ライヴ配信なので、眠い目をこすりながら深夜に見た。
新型コロナが流行っている現在が舞台で、かなり認知症気味でケア施設に入っている父親に娘が面会にくるという話である。二人の間にはアクリルかなんかの透明な壁があり、施設での面会時間も60分に制限されていて、芝居の上演時間もだいたいそれくらいだ。父はかなり昔のことを覚えておらず、さらに実際には起こっていないことやいなかった人のことを実際にいたと思い込んでいたりするので、話がなかなかかみ合わない。
人のいない暗い劇場がライトアップされているところから始まるのだが、この様子はちょっとロウソクで照明をとるブラックフライアーズ座(近世ロンドンの室内劇場)あるいはそれを模してロンドングローブ座の中に作られたサム・ワナメイカー・プレイハウスみたいな感じで、なかなか雰囲気はいい。そこに出てくるスティーヴン・レイ演じる父はロン毛にフリルみたいな服を着ており、王様みたいに見える時もあればピエロみたいに見える時もある。たぶん元気な時はとてもユーモアにあふれていて音楽や賑やかなことが好きな人だったのだろうという感じで、娘の前でもよくおどけたりふざけたりしている。王で道化だという点ではちょっとリア王みたいなキャラクターなのだが、だいぶ記憶が混濁している。娘はそんな父親のことを思っているが、たまに「もう面会はやめようか…」みたいなことを口にしたり、父親の病気をつらく思っている。
主演2人の演技は申し分ないが、座っている人が会話するだけで動きがなく、また内容も真面目でつらいものなので、深夜に時差ぼけで見るにはあんまり適していない。さらに私はフランク・マクギネスは優れた作家だとは思うが得意だと思ったことがないので、全体的にけっこうキツいと思う芝居ではあった。テーマも深刻だし、人を選ぶと思う。