老優をめぐる1.5人芝居~『バリモア』

 シアター1010で『バリモア』を見た。ウィリアム・ルースによる戯曲で、丹野郁弓演出、無名塾による公演である。1942年、『リチャード三世』を久しぶりに演じようとする老優ジョン・バリモアと、声だけのアシスタント、フランクのやりとりで展開する芝居で、1.5人芝居というような感じである。

 基本的にバリモア役の仲代達矢の演技を見る芝居である。こういう老名優がまるで自らの映し鏡みたいな老名優の役をやるというだけで見ていて面白いし、いろいろ笑えるところもある。こういう、「名優が演じる前提で名優の人生を」みたいな芝居は『キーン』(エドマンド・キーンについての芝居)とか『ドレッサー』とか『レッド・ヴェルヴェット』(アイラ・オルドリッジについての芝居)とかいろいろあり、役者自身の個性が大事なので、その種の上演としては成功していると思う。

 ただ、台本じたいの洗練度としては『キーン』や『ドレッサー』には負けるかなぁ…という気がした。『バリモア』はわりと小ネタで笑わせるみたいな台詞が多くて、それぞれの小ネタがそこまで有機的につながっていない。『キーン』などに比べるとちょっとまとまりのない印象を受ける。