台詞の洪水〜『ドレッサー』(ネタバレあり)

 本多劇場ロナルド・ハーウッド作、鵜山仁演出『ドレッサー』を見てきた。映画は見たことあったが、舞台で見たのははじめてである。

 第二次世界大戦中、身心に病気をかかえているらしいベテラン俳優(名前は不明、旦那さまなどと呼ばれている)と、付き人でかいがいしくその世話をしてきたノーマンを軸にした話である。ノーマンは巡業先で『リア王』の上演前に精神の平衡を失い、一時期は行方不明にまでなってしまった俳優をどうにか落ち着かせて公演をやらせようとする。なんとか上演終了にこぎつけるが、結局老優は公演後に亡くなってしまう。

 とにかくたくさん台詞があり、ノーマンと老優はもちろん、老優の妻で主演女優である「奥様」(この登場人物も名前が不明)や舞台監督のマッジもよくしゃべる。その中で、妻だけではなく、ゲイであるノーマンやマッジなど、皆がこの老優を愛し、そのペースに巻き込まれながらどうにか劇団を運営していっているらしいことがわかる。とにかく芸道に打ち込み、芝居を大事に考えていてカリスマがあるが、それ以外のことについてはあまり信頼できるとはいえない老優の役者としてのこだわりとその業、そしてそこに巻き込まれつつ役者に尽くすしかないノーマンの心境がよくあらわれた台本だ。

 主題としては、やはりわがままな名優を主人公にしたサルトルの『キーン』にかなり似ていると思うのだが、一方で『ドレッサー』は第二次世界大戦が舞台だというところに特徴がある。この芝居では、シェイクスピアナチスへの反抗心、イギリスに対する愛国心と結びつけられている。ドイツの空襲にもめげずに舞台を続けるというのは、イギリス人にとって、自分たちはユーモアが欠如した冷酷でお堅い連中であるナチスとは違うのだ、という誇りを示すための行動であり、この芝居ではそれがわりと前面に出ているところがあると思う。

ドレッサー [DVD]
ドレッサー [DVD]
posted with amazlet at 18.03.18
復刻シネマライブラリー (2013-03-11)
売り上げランキング: 79,322