詐欺師としての役者~RSC『錬金術師』

ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー錬金術師』を見てきた。ベン・ジョンソンの有名な戯曲で、ポリー・フィンドリー演出である。あらすじは日本で上演された際のこちらを見て欲しいのだが、基本的には初期近代ロンドンを舞台に、屋敷の主人が留守をしている間に錬金術サギで儲けようとする執事とその仲間2人を軸とし、詐欺師集団が信じやすいロンドン市民から金をしぼりとるとする様子を描く喜劇である。最後は主人が戻ってきて詐欺の利益がおじゃんに…というオチがつく。

 セットは初期近代ロンドンの室内を模したもので、テーブルや椅子などが中心のシンプルなものだが(あまりごてごてした錬金術の道具を出したり引っ込めたりすることはしていない)、上から下がっているワニの剥製がポイントである。錬金術詐欺でカモから金を巻き上げるたびにフェイス(Ken Nwosu)がこのワニを降ろして口から金を入れて隠すということをするのだが、この演出がなんとも言えずコミカルだ。全体的にはとにかくポンポンセリフが飛び交うテンポの速い喜劇で、欲の皮の突っ張った人間たちを辛辣に諷刺している。

 とりあえずこのプロダクションのフェイスは若くてエネルギッシュな感じで、日本で上演した時の年取っていて押し出しが立派な感じの橋爪功とはかなり違う。フェイスが若いのと、サトルがちょっと風来坊っぽい感じに作られているせいで、権威主義的な連中を詐欺でからかうというような様子が強くなっていると思う。詐欺師集団唯一の女性であるドルは詐欺で儲けつつ、ケンカばかりのフェイスとサトルをちょっとバカにしている感じもあり、詐欺師同士の間でもあまり信頼しあっていない感じが良い。

 台詞回しにもいろいろ工夫がある。錬金術用語ばかりで難しいジョンソンのテクストをかなりカットしてテンポ重視にしたらしいのだが、ポンポンセリフが飛ぶのに台詞回しはけっこう明瞭だ。"fucus"(化粧品の一種らしい)が"fuck us"に聞こえるとかいう洒落もある。

 この芝居ではフェイスを中心に詐欺師たちがどんどん変装を繰り返して人々を騙くらかすのだが、最後にフェイスが舞台上で執事の衣装を脱いで平服に戻り、カーテンコールでは役者が全員、ふだんの服装に戻って登場人物としてではなく俳優として出てくる。この芝居のテーマを考えるとこのカーテンコールの演出は大変面白い。この芝居では人がアイデンティティを変えることによってそれを見ている周りの人々が騙されるが、実のところ、こういうめまぐるしい変身、身元を偽るということは役者の技術と同じであるということがカーテンコールで示されている。役者が変身の技術を身につけて人々に現実と離れたものを見せるアーテイストであるのと同様、詐欺師も変身の技術を身につけて人に見たいものを見せる「アーティスト」(con artist)だ。役者は良い意味で詐欺師である、ということはよくわかる終わり方だっが。