かなり時代考証がしっかりしているディケンズの伝記もの~『Merry Christmas!~ロンドンに奇跡を起こした男~』

 『Merry Christmas!~ロンドンに奇跡を起こした男~』を見てきた。『クリスマス・キャロル』を書いた時期のチャールズ・ディケンズに焦点をあてた時代ものである。

 

 大人気作家だが、最近ヒット作を出せていないディケンズ(ダン・スティーヴンズ)は、親友でエージェントのフォースター(ジャスティン・エドワーズ)にせかされつつ、お金のためクリスマスの話を書くことにする。ところがスランプ気味で田舎から厄介者の父親ジョン(ジョナサン・プライス)がやって来たせいもあり、なかなか執筆がはかどらず…

 

 ちょっとファンタジーっぽい雰囲気のクリスマスの映画なのだが、思ったよりもずいぶんと時代考証が正確だ(歴史ものの作家が書いた本をもとにしているそうで、未読なのだが原作がしっかりしてるのかも)。かなり若いディケンズが登場するが、『クリスマス・キャロル』を書いた時に30代の初めだったので、30代半ばのダン・スティーヴンズが演じているのは比較的実年齢にあった役者をキャスティングしていることになる。またディケンズは40代になってから娘くらいの女優エレンと真剣な不倫関係に陥るなど、どうもけっこうモテたみたいで、さらにとても面白い人だったそうで講演でも引っ張りだこだったので、若いうちから成功したハンサムな人気作家というこのキャラクター造形はわりと正確なはずだ。ディケンズは実際に登場人物の台詞を声色を使って芝居みたいに読み上げるのが得意で(だから講演や朗読会が人気だった)、書く時からいろいろ舞台でも見るみたいに場面を想像していたらしいので、この映画で実際にディケンズが想像したキャラクターが出てきてしゃべったりするのは、一見ファンタジー風だが実は本人の創作スタイルに適合した描写になっている。他にも、この映画に出てくる夜歩き回るのが好きだった話とか、借金まみれの父親のせいでトラブルを抱えていてそれが創作に反映されていることや、前作がウケなくて短期間で『クリスマス・キャロル』を書いたことなどは、ちょっと強調されているところはあってもほぼ史実に基づいている。

 

 そんなわけでものしっかりした文芸歴史ものなのだが、全体的に芸達者な役者をそろえて子どもなどにもわかりやすくなるよう、楽しい映画に仕上げている。ダン・スティーヴンズやジョナサン・プライスはもちろん、スクルージ役のクリストファー・プラマーもさすがだ。才能がありすぎてつい自分本位になってしまうディケンズが妻にたしなめられ(ただベクデル・テストはパスしない)、問題だらけの父との関係を再考するというオチは『クリスマス・キャロル』にあえて寄せているが、けっこう甘ったるくなりそうなところを気をつけてあまりイヤミのない感じに仕上げている(それでもちょっと都合が良すぎかもしれないが)。