80年代ロンドンのゲイシーンを描いたよくできた一人芝居~Cruise (配信)

 ストリームシアターの有料配信でCruiseを見た。ジャック・ホールデン作・出演で、ホールデンがとっかえひっかえいろんな役を演じる一人芝居である。ショアディッチタウンホールでの無観客上演を撮影したものだ。

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 舞台は現代ロンドンで、性的マイノリティ向け電話相談のボランティアを始めたジャックがマイケルという男性から80年代のソーホーの話を聞くという枠がある。マイケルは地方からロンドンに出てきたゲイの若者で、80年代ソーホーのゲイシーンに馴染み、真剣に愛せる恋人デイヴも見つかって幸せだったが、1984年2月29日(閏年)に自分もデイヴもHIV陽性だということがわかる。4年くらいしか生きられないと言われたデイヴとマイケルは人生を満喫しようとするが、デイヴは2年しか生きられず、『トップガン』が上映中の映画館で倒れて亡くなってしまう。落ち込むマイケルはふとしたことから出会ったゴードンとの会話で生きる気持ちを取り戻す。自分の最後の夜になるかもしれない1988年2月29日にマイケルは悔いが無いよういろいろな人に会い、馬鹿騒ぎもするが、結局生きのびることになる。

 上演を撮影したものにしては照明や撮影などがとても上手で、ロンドンの小さい劇場でやっているクィア系の新作の臨場感がそのままつたわる映像になっている。ホールの通路をオールド・コンプトン・ストリートに見立てるなど、場所の使い方もうまい。舞台にはホールデン以外に音楽を担当するジャック・エリオットがいて、ホールデンが歌ったり踊ったりするところもあり、ちょっとミュージカル風だ。

 台本も大変しっかりしたもので、既に2020年代の若者にはあまりピンとこなくなっている80年代のソーホーの雰囲気がよくわかるようになっている。80年代のエイズ禍は既に歴史の一部なので、けっこう風化してしまったり、また逆に実際よりも恐ろしくみんな死んでしまった惨事みたいに誇張されがちだが、そのへんのバランスをきちんと考えて、大変だったがちゃんと生き残った人もいるのだ、というところで新型コロナウイルスが流行する現在につなげる展開はたいへんうまい。さらにCruiseというのはゲイスラングのクルージングだろうと思って見ていたら、途中でまさかの『トップガン』パロディが出てきて(ホールデンがけっこうトム・クルーズの真似がうまい)ダブルミーニングだったのか…とわかるあたりもなかなかユーモアがある。主演のホールデンが実に芸達者で、くるくるといろんなキャラクターを演じ分けるのも魅力的だし、とても面白い作品だった。