教会のシェイクスピア~ギルドフォード・シェイクスピア・カンパニー『ハムレット』(配信)

 ギルドフォード・シェイクスピア・カンパニーの『ハムレット』を配信で見た。トム・リトラー演出で、2月の上演を録画したものである。ギルドフォードのホーリー・トリニティ教会で上演された。

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 衣服や小道具は現在のもので、ハムレット(フレディ・フォックス)はスマートフォンも使っている。かなりカットしたり、場面の順番を入れ替えたりして2時間半におさめている。キャストも少なく、比較的削ぎ落とされた上演だ。先王の亡霊は実際に姿を見せることがなく、暗い教会の中で声が響くだけだ。劇中劇の場面は実際に上演の様子を見せず、王宮メンバーが座って見る際の反応を見せながら内容をハムレットが話すだけになっているが、これはけっこう珍しい見せ方だと思う。

 この上演の特徴として、デンマーク勢がかなり酒飲みで、とくにハムレットアルコール依存症だということがある。クローディアス(ノエル・ホワイト)とガートルード(カレン・アスコー)が出てくるところではお酒のセットが置いてある。さらにハムレットは最初、酒瓶を抱えて出てきており、明らかにアルコール依存症のせいで情緒が不安定だ(父が亡くなってからショックで酒浸りだったのかもしれない)。先王の亡霊を見て誓うところで酒瓶を手放す…ということで、この後はハムレットがお酒をやめてしっかりしようとする過程を見せるような演出になる。ただ、飲酒問題のせいでかなりメンタルヘルスの問題を抱えているので気分がコロコロ変わるハムレットではあり、急に泣いたり笑ったり、喜怒哀楽が激しい。独白の場面では手首にナイフをあてて切る寸前まで行っており、本当に不安で自殺しそうだ。

 教会で上演されているだけあって、『ハムレット』全体を貫く信仰のテーマがよく見えるようになっている。教会のオルガンをライヴで演奏するなど、宗教的な雰囲気を生かした上演だ。自殺寸前まで行くハムレットが諦めるのも神が自殺を禁じていてそういう神に見守られているからだろうし、ハムレットがお祈りするクローディアスを殺そうとして結局やめるのも神が見ているからだ。途中でハムレットが牧師の衣装をまとって演壇に立ち、峻厳な宗教儀式をパロディ化したような感じで面白おかしく話すところがあるのだが、ここはまるでハムレットブリテン諸島の民俗行事である冬の道化の宴を治める無礼講の王になったみたいな感じである。宗教儀礼を転倒させる無礼講の王であるハムレットが結局は神の意思に従って秩序を取り戻そうとするという展開になる。最後はフォーティンブラスが演壇でハムレットに弔辞を述べていてまるで本当の葬儀のような終わり方だ。