キリスト教的でオーソドックスな上演~ボブ・ジョーンズ大学『ハムレット』(配信)

 ボブ・ジョーンズ大学の公演『ハムレット』を配信で見た。2016年の公演を撮影し、2020年の3月に公開したものである。演出は大学の教員であるポール・ラドフォードがつとめている。

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 ボブ・ジョーンズ大学はサウスカロライナ州にあるキリスト教根本主義の大学である。舞台芸術に力を入れており、大学の教員・学生からなるクラシックプレイヤーズというシェイクスピアを長年上演している。大学じたいは長きにわたる人種隔離とか保守政治とのかかわりで有名なところである。

 大学での上演にしては質は悪くなく、緊張感もあってよくできている(ただし白人ばっかりである)。衣装は「ビザンチン風」で、全体にステージをやや暗めにしており、陰謀渦巻く宮廷の雰囲気をよく表現している。ハムレット(デイヴィッド・シュウィンクル)は敬虔な王子で、やはりキリスト教根本主義の大学であるため、あまり信仰や良心のことを真面目に考えていない人も多い環境で神に対して責任ある振る舞いをしようとしている若者という感じである。亡霊が悪魔のしわざではないかということについてはとても気にしているようだし、お祈りしているクローディアス(フィリップ・ユート)を殺すかどうか迷うところなどではキリスト教徒らしく振る舞おうと頑張っている感じだ。

 全体的に非常にオーソドックスであまり奇をてらったところはない演出なのだが、ハムレットがポローニアス(ジェフリー・スティガル)を殺した後で、それを聞きつけたらしいオフィーリア(クリスティーナ・ヤシ)が取り乱してハムレットに飛びかかろうとするという演出があるのはわりと珍しいと思う。台詞のない短い場面だが、この後オフィーリアが狂気に陥ってしまう伏線になっている。狂乱の場面でオフィーリアが花を配るところでは花のかわりに切られた自身の髪を配るという演出になっている。