貴種流離ハムレット~劇団四季『ライオン・キング』

 劇団四季ライオン・キング』をはじめて見てきた。

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 お話はまあだいたいアニメ映画と同じである(こちらは見たことがある)。父であるライオンの王ムファサの死をきっかけに領地を離れた若きライオンの王子シンバが、王位を取り戻すため王国に戻り、簒奪者の叔父スカーと戦うというものである。

 登場人物が全員動物で、役者陣は全員動物の扮装で出てきて、さらに一度などムファサ(金久烈)がたてがみつきのマスクを外して動き回るなどという超不自然な演出があるにもかかわらず、最後まであまり気にせず楽しく見ることができる。大がかりな舞台装置に、動物や、場合によっては草木までが踊り回るダイナミックな歌やダンス、豪華な衣装や考え抜かれた照明など、舞台の良さを最大限に生かした作品である。奈落やせりを使った演出も気が利いている。

 

 話のほうは『ハムレット』+貴種流離譚である。ハムレットにあたるのがシンバ(鈴木智之)、父ハムレットにあたるのがムファサで、クローディアスにあたるのがなんかエモっぽい悪役のスカー(鈴木智之)、ポローニアスがザズ(百々義則)、オフィーリアがナラ(木内志奈)だ。ティモン(近藤聡明)とプンバァ(近藤聡明)はちゃんと活躍するローゼンクランツとギルデンスターンという感じである。ただ、王国の描き方がやたら大時代で血筋に強くこだわっているあたりはむしろ『ハムレット』より古くさいくらいで、ナラはシンバが生きているのを発見した時、血筋からして自動的に正統な王になるのだから戻ってこなくてはならないというような口ぶりで相手を説得する(『ハムレット』はたぶん王になるのに直系かどうかよりも推挙とかが要る)。さらにスカーに騙されたシンバが流浪するあたりは貴種流離譚で、全体的に古代の神話みたいなオーソドックスな物語を紡ごうとしているんだなと思った。