アクションとロマンスたっぷり、さらに『ハムレット』風味も〜『バーフバリ 王の凱旋』(ネタバレあり)

 『バーフバリ 王の凱旋』を見た。

 前作は見逃してしまったのだがとても評判が良かったのでレンタルDVDで見たところ、大変面白かった上『ヘンリー五世』にそっくりな場面があって、これは映画館で見ねば…と思って見てきた。
 正直、2018年にこんな正攻法のスペクタクル映画をこれだけの完成度で作れるとは思ってなかったので、ビックリした。内容は古典的な貴種流離譚で、滝の下ののどかな村で、村長の妻サンガ(ロヒニ)の養子としてすくすくと育った青年シヴドゥ(プラバース)が、自分が亡き英雄アマレンドラ・バーフバリ(プラバースが一人二役)の息子マヘンドラ・バーフバリであると知り、父を殺したおじのバラーラデーヴァ(ラーナー・ダッグバーティ)に復讐してマヒシュマティ王国の王になるまでを描く。
 父を殺され、母デーヴァセーナ(アヌシュカ・シェッティ)の名誉を傷つけられた息子が、父を殺したおじに復讐するということで、(こちらは『ヘンリー五世』ではなく)『ハムレット』をちょっと単純にしたような展開だ。これが全編、ものすごいアクションと、インドの神話からヨーロッパの絵画(雲間のペガサスのヴィジュアルはたぶんウォルター・クレインあたりを参考にしていると思う)までいろいろな要素を取り入れてうまく統合した綺麗な映像、歌とダンスに彩られて展開する。画面のひとつひとつがまるで絵みたいで、『ベン・ハー』か『スパルタカス』かというような大がかりなセットとCGを組み合わせ、色調にもとても気を遣っている。アクションはまあ最初っからフル回転で、私が個人的に好きな弓矢を用いた接近戦がアマレンドラ・バーフバリとデーヴァセーナの恋のきっかけになっていたりするところもニクい。
 キャラクターに魅力があるところもポイントだ。高潔であるがゆえに命を落としてしまう父バーフバリと復讐を誓う息子バーフバリや忠臣カッタッパ(サティヤラージ)はもちろん、女性陣のキャラクターに奥行きがあるのが良い(残念ながらベクデル・テストはパスしないのだが)。とくに国母シヴァガミ(ラムヤ・クリシュナ)は極めて有能な政治家だが愛情深い母(アマレンドラ・バーフバリには養母にあたる)でもあり、親心につけ込まれてバラーラデーヴァの陰謀に騙されてしまうという人物で、普通なら「愚かな母」みたいなステレオタイプになりそうなところを非常に奥深く人間味のあるキャラクターにしていて感心した。ついつい息子のうちでも賢くて優しいバーフバリを贔屓したくなるが、それではダメだと思ってバラーラデーヴァのことも心にかけようとした結果、大変なことになってしまうというのはなんとも痛ましくドラマティックだ。デーヴァセーナはもうちょっと描き方が浅いというか、最初は猛烈な戦士として登場するのに、バラーラデーヴァの陰謀にかかってからはただ耐えて待つだけの母となるのはちょっと人物像が一貫性に欠けるところがある。ただ、シヴァガミとデーヴァセーナがやり合うところで、2人ともかなり激しく口論するのにどちらもあまり嫌な人物には見えず、人間味のある女性に見えるところはうまく描けている。とくに意識的にフェミニストな映画だとかいうわけではないのだが、理想化せずに奥行きのある女性像を描いているところはちょっと『ゲーム・オブ・スローンズ』を思い出した。
 いくつか脚本に細かいツッコミどころはあっても、とにかく娯楽の王道、映画らしい映画で、是非大画面で見るといいと思う。ただ、いくつか映写方法に文句がある。なんでも国際版はカットされているところがあるらしいのだが、そのせいなのかところどころ編集がブツっと切れていて妙な印象を与える。また、私がスクリーンに近すぎる席だったせいかもしれないのだが、遠景の場面で画面に縦筋が入っているような粗い画質になるところがあり、見づらかった。あれはなんでかな?