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実話をヒントにしたウソのような本当のようなウソの話~『ヒットマン』(配信)

 リチャード・リンクレイター監督の新作『ヒットマン』を見た。日本では劇場公開されるが、アイルランドではNetflix配信である。

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 主人公のゲイリー(グレン・パウエル)はニューオーリンズの大学で心理学と哲学を教える一方、テク系の作業が得意で地元の警察でおとり捜査の後方支援をする副業をしていた。ある時、おとり捜査で殺し屋のふりをする予定だったジャスパー(オースティン・アメリオ)が暴力行為で停職になってしまい、緊急でゲイリーがかわりに殺し屋のフリをしたところ、捜査が大成功してゲイリーはおとり捜査官として活動することになる。次々とおとり捜査を成功させるゲイリーだが、ある日、夫に虐待されているマディソン(アドリア・アルホナ)に出会い、殺し屋のフリをしつつマディソンに惹かれてしまう。

 大学教員がおとり捜査の副業なんてするヒマがあるわけないでしょ…と思ったらなんと実話をもとにしているそうで、実際に1980年代にヒューストンの大学で教えながら殺し屋のフリをするおとり捜査で活躍していた同名の人がいたそうだ。パートナーに虐待されている女性を助けた話も本当らしい。しかしながらいくらなんでも実在の人物について、殺しの依頼をしてきた女性と恋に落ちたり、自らが殺人事件に巻き込まれてしまうみたいな、ウソのような本当のようなウソの話を作るのはまずくないか…と思ったら最後にちゃんと故人に敬意を示すオチがあり、この種の映画としてはすごくちゃんとしてると思った。

 主演のグレン・パウエルが脚本にも参加しているそうだが、全体的にかなりダークユーモアたっぷりだとはいえちゃんとしたロマコメである。終盤はロマコメにしてはちょっとダークすぎる方向に行くが、被害に遭うのは暴力的な男性ばかりなので、まあ「いくらなんでもそれはやばいのでは…」と思いつつけっこう楽しめてしまう。途中でゲイリーが野鳥の話をしたり、授業で人間の心理の話をしたりするのだが、このへんがリンクレイターっぽい…というか、ゲイリーのオタクっぽい小難しい話が、アイデンティとかパフォーマンス、自己実現といったお話全体のテーマにきちんとかかわってくるところも気が利いていると思う。ゲイリーが働いているニューオーリンズの警察チームを演じる脇役陣も面白いし、笑うところもたくさんあり、楽しい作品だ。グレン・パウエルは『恋するプリテンダー』といいこれといい、現在ハリウッドにおけるロマコメの帝王だと思う。