家族ホラーと涙目のハムレット~ブリストルオールドヴィク『ハムレット』(配信)

 ブリストルオールドヴィクの配信でジョン・ヘイダー演出『ハムレット』を見た。

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 現代の衣装で、セットも黒っぽい現代風の美術である。後ろにかなり大がかりな回転する機構がある。オーソドックスに黒ずくめのハムレットビリー・ハウル)をはじめとして、みんな色みは抑え気味の衣装で陰鬱な雰囲気だ。休憩を入れて3時間あるのだが、わりとスピーディで台本についてもけっこうカットしており、一方で短く不完全な版だと言われている第一クォートからセリフを持ってきているところもある。

 冒頭はおなじみの'Who's there?'ではなく、クローディアス(フィンバー・リンチ)がガートルード(ニーヴ・キューザック)との再婚を発表するアナウンスの録音をハムレットがひとりで聞いているところから始まる。この作品のハムレットは音声レコーダーを持ち歩いていて、いろんな音を録音して後で聞き直したりしているし、またノートを持って歩いてメモもとっているようだ。独白の場面でお客さんにノートを持っていてもらうなど、小道具を使って客いじりをすることもあるのだが、一方でこのなんでも記録しようとするハムレットの性格は、どんどん自分の世界に閉じこもる方向にも働いている。第3幕第3場でクローディアスを殺すことを考える場面では、実際にハムレットがクローディアスを撃ってしまうところで休憩に入り、再開後に前の場面がハムレットの願望だったことがわかる。クローディアス殺しを妄想した後、はずみでポローニアス(ジェイソン・バーネット)を殺してしまった後、ひとりでオフィーリア(ミレン・マック)の声の録音を聞き直しているハムレットは、すごく後悔しているようなのだがそれを素直にオフィーリアに告げることができないようだ。後のオフィーリアの葬儀の場面でひどく動転してしまうのは、こうしたことへの後悔がなせるわざなのだと思う。

 このハムレットは自ら劇中劇に殺人犯役で出演していて、ちょっとアーティスティックな感じのハムレットである。劇中劇を演出する場面ではハムレットが演出マニュアルみたいな本を手に読み上げているのだが、他の役者たちも同じ本の読み上げをしていて、有名な「自然に鏡を…」のセリフはハムレットではなく、役者たちに振られている。全体的にこのハムレットは涙目になっていることが多く、独白の場面でも目が泳いでいたり不安そうで、神経質で孤独な芸術青年タイプだ。

 本作ではかなり亡霊が活躍し、台本には亡霊があらわれる指定がないところにも出てくる。最後のフェンシング対決の場面にも出てきて、最後には死人だらけのステージに現れてハムレットを奈落へ誘う。役者の数が『ハムレット』にしては比較的少なく、亡霊こと父王と劇団長、墓掘りをひとりの役者(ファーダス・バムジ)が演じていたり、第一クォートからガートルードの母親らしさが際立つセリフを持ってきていたり(第一クォートにはガートルードがクローディアスの陰謀を知って息子を助けたいと考える場面があり、私は好きなのだがカットされることが多い)、フォーティンブラス関係の政治的な場面がカットされていたりするのもあり、わりと親密感のある家族ホラーといった印象だ。