リアリズムは要らない~ドン・キホーテプロジェクト『リア王』

 綾瀬のKISYURYURI THEATERでドン・キホーテプロジェクト『リア王』を見てきた。珍しく招待で見た。

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 工場の建物を再利用した劇場で、ほとんど何もない部屋でやる『リア王』である。窓から自然光をとっているのだが、終盤は窓まで血まみれになったり、シンプルながらけっこう演出は工夫されている。綾瀬だからなのか何なのか、全体的にちょっと庶民的でガラの悪い感じの『リア王』だ。

 

 ただ、肝心のリア王にかなり問題がある。まず、リア王にしてはちょっと役者が若いように思った。それだけならまあいいのだが、台詞回しがものすごくボソボソしていて、部屋の奥に向かって話すところなどはかなり聞き取りづらくなる。なんかテレビみたいなリアリズムふうの演技なのだが、リアリズムにのっとらない形で作られた舞台の戯曲なんだから、リア王はもっと長い台詞をはっきりろうろうと言うようにしないとダメだろうと思う。この芝居にはもっとわざとらしさが必要だ。リアリズムっぽくするとかえってしみったれた感じになる。

 

 あと、これは内容とは全く関係ないのだが、舞台裏のことで、トイレの向かいにある台所は片付けたほうがいいと思った。トイレが非常にわかりづらいところにある上、手を洗う場所がなく、私はうっかり手を洗うところと間違えて向かいのキッチンに入ってしまったのだが、そこがものすごく汚くて、食事をした後の皿とかがたくさん積んである上、排水溝にたばこの吸い殻がつまっていた。さらにそこにおそらく芝居で使う?と思われる泥のようなものが無造作に置かれていたのだが、これは後でエドガーがトムに変装する時につけるやつだとわかった。お客に見えるところに食べ物と芝居で使う道具をごっちゃにして置いておくのはちょっとどうかと…

貴種流離ハムレット~劇団四季『ライオン・キング』

 劇団四季ライオン・キング』をはじめて見てきた。

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 お話はまあだいたいアニメ映画と同じである(こちらは見たことがある)。父であるライオンの王ムファサの死をきっかけに領地を離れた若きライオンの王子シンバが、王位を取り戻すため王国に戻り、簒奪者の叔父スカーと戦うというものである。

 登場人物が全員動物で、役者陣は全員動物の扮装で出てきて、さらに一度などムファサ(金久烈)がたてがみつきのマスクを外して動き回るなどという超不自然な演出があるにもかかわらず、最後まであまり気にせず楽しく見ることができる。大がかりな舞台装置に、動物や、場合によっては草木までが踊り回るダイナミックな歌やダンス、豪華な衣装や考え抜かれた照明など、舞台の良さを最大限に生かした作品である。奈落やせりを使った演出も気が利いている。

 

 話のほうは『ハムレット』+貴種流離譚である。ハムレットにあたるのがシンバ(鈴木智之)、父ハムレットにあたるのがムファサで、クローディアスにあたるのがなんかエモっぽい悪役のスカー(鈴木智之)、ポローニアスがザズ(百々義則)、オフィーリアがナラ(木内志奈)だ。ティモン(近藤聡明)とプンバァ(近藤聡明)はちゃんと活躍するローゼンクランツとギルデンスターンという感じである。ただ、王国の描き方がやたら大時代で血筋に強くこだわっているあたりはむしろ『ハムレット』より古くさいくらいで、ナラはシンバが生きているのを発見した時、血筋からして自動的に正統な王になるのだから戻ってこなくてはならないというような口ぶりで相手を説得する(『ハムレット』はたぶん王になるのに直系かどうかよりも推挙とかが要る)。さらにスカーに騙されたシンバが流浪するあたりは貴種流離譚で、全体的に古代の神話みたいなオーソドックスな物語を紡ごうとしているんだなと思った。

「人文・社会科学におけるオープンサイエンス」での発表が無事終わりました

 オープンサイエンスサミット「人文・社会科学におけるオープンサイエンス」での発表「ブラックホールと啓示:ウィキペディアと研究・教育」が無事終わりました。相変わらずちょっとしゃべりすぎましたが、他の方の発表も面白かったし、あまりないような機会で興味深かったです。なお、今日のデモで作った記事は[[フリントコーン]]です。

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ライムシティでポケモンが欲しくなったらどうするの?~『名探偵ピカチュウ』(ネタバレ多数)

 『名探偵ピカチュウ』を見てきた。なお、ポケモンのことはほとんど全く知らない。

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 ポケモンと人間が共存している世界が舞台である。主人公のティム(ジャスティス・スミス)は父のハリーと疎遠だったが、探偵だったハリーが事故死したという知らせが入る。ティムは父が住んでいたライムシティに向かうが、そこで記憶喪失になっていたティムの相棒ポケモンピカチュウ(声:ライアン・レイノルズ)を発見。なぜかティムとだけは言葉が通じるピカチュウにハリーは生きていると力説され、父に関する手がかりを探すことにするが…

 

 とりあえず脚本はかなりダメである。ネタバレになるが、オチがけっこう強引で、「なんで最初から声で気付かなかったんだ…?」となるし、ピカチュウが成人男性の声で話す理由付けにこだわりすぎていてあまり面白くないまとめ方だと思った(なんなんだあのさわやかスター・ウォーズみたいな落とし方は)。さらにミュウツーが「息子を連れてこい」と言った理由がよくわからないとか、ビル・ナイがもう出てきた瞬間から雰囲気だけで悪役だとネタバレしているとか、ハワードの息子のロジャーは被害者面してるけどいやお前にもけっこう責任あるだろとか、渡辺謙を出した意味があまりないとか、ミステリとしては大変お粗末だ。『ズートピア』が、子供向けの映画とはいえ精一杯ノワールらしくなるようにプロットにも雰囲気にも気を配っていたのとは大違いである。

 

 とはいえ、おそらくこの映画は予算をピカチュウを可愛くすること(そのためのライアン・レイノルズのギャラを含む)に全振りしていて、そのせいで脚本がおろそかになったのではないかと思われるほどピカチュウが可愛い。これは図々しい成人男性であるライアン・レイノルズの声を含めてピカチュウが可愛いということである。ピカチュウはもっふもふの外見をしているのだが、顔の表情(とくに超注目されている眉間のシワの使い方)とか毛の質感などのCGがなかなか巧みで、ダイナミックで緩急を心得たライアンの台詞回しとよくあっている。話のアラはたくさんあるのだが、可愛いポケモンとライアンの声芸を見ているだけで楽しいのでなんか別に腹は立たないし、どうも満足したような気分で映画館を出られる。なかなかズルい映画である。なお、ルーシーがシンシアと話すところでベクデル・テストはパスする。

 

 あと、これは私がポケモンのことを全く知らないのでよくわからなかったのかもしれないのだが、ライムシティの中で仲間としてポケモンが欲しくなった時はどうするのだろう?序盤でルーシーがティムに、ポケモンのパートナーはいないのかたずねて、次に会った時にはティムがピカチュウを連れているのを見て喜んでいたので、ライムシティ内でポケモンを仲間にする方法は存在する…はずだ。しかしながら、設定によるとライムシティ内のポケモンは野生ではなく、野生でないならば勝手にモンスターボールでつかまえてはいけないはずだと思われる。ライムシティはヴィジュアル的にもかなり魅力があるのだが、設定がそんなにちゃんと描かれていなくて、原作のゲームをしたことがない初心者にはよくわからないのが少し残念だった。

東久留米市立中央図書館イベントが無事終わりました

  東久留米市立中央図書館でのイベントが無事終わりました。児童書専門書店トロル店主の関本練さん、福音館の山形昌也さんとのフリートークイベントで、思ったよりリラックスした雰囲気で楽しく本の話ができてよかったです。お越し下さった方々、ありがとうございます。

 

 また、ひとハコ図書館という企画でフェミニズム図書館の選書ブースを出しました。これは明日までやっています。フェミニズム入門の本というコンセプトですが、図書館イベントということでディープな本好き向けに笙野頼子と『アヴァロンの霧』を入れたのが冒険です。

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ひとハコ図書館

 

 

『お砂糖とスパイスと爆発的な何か—不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』がアマゾン予約可能になりました

 2冊目の単著『お砂糖とスパイスと爆発的な何か—不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』が書肆侃侃房から6月半ばに刊行予定です。アマゾンに書影が出ました。表紙の絵は緋田すだちさんに描いていただきました。帯はなんとライムスター宇多丸さんに書いていただいております。

お砂糖とスパイスと爆発的な何か—不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門
北村紗衣
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 また、記事も1本公開されています。これは以前はてなで書いたエントリに『グリンチ』などの話題を加えてアップデートしたものです。

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