ライムシティでポケモンが欲しくなったらどうするの?~『名探偵ピカチュウ』(ネタバレ多数)

 『名探偵ピカチュウ』を見てきた。なお、ポケモンのことはほとんど全く知らない。

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 ポケモンと人間が共存している世界が舞台である。主人公のティム(ジャスティス・スミス)は父のハリーと疎遠だったが、探偵だったハリーが事故死したという知らせが入る。ティムは父が住んでいたライムシティに向かうが、そこで記憶喪失になっていたティムの相棒ポケモンピカチュウ(声:ライアン・レイノルズ)を発見。なぜかティムとだけは言葉が通じるピカチュウにハリーは生きていると力説され、父に関する手がかりを探すことにするが…

 

 とりあえず脚本はかなりダメである。ネタバレになるが、オチがけっこう強引で、「なんで最初から声で気付かなかったんだ…?」となるし、ピカチュウが成人男性の声で話す理由付けにこだわりすぎていてあまり面白くないまとめ方だと思った(なんなんだあのさわやかスター・ウォーズみたいな落とし方は)。さらにミュウツーが「息子を連れてこい」と言った理由がよくわからないとか、ビル・ナイがもう出てきた瞬間から雰囲気だけで悪役だとネタバレしているとか、ハワードの息子のロジャーは被害者面してるけどいやお前にもけっこう責任あるだろとか、渡辺謙を出した意味があまりないとか、ミステリとしては大変お粗末だ。『ズートピア』が、子供向けの映画とはいえ精一杯ノワールらしくなるようにプロットにも雰囲気にも気を配っていたのとは大違いである。

 

 とはいえ、おそらくこの映画は予算をピカチュウを可愛くすること(そのためのライアン・レイノルズのギャラを含む)に全振りしていて、そのせいで脚本がおろそかになったのではないかと思われるほどピカチュウが可愛い。これは図々しい成人男性であるライアン・レイノルズの声を含めてピカチュウが可愛いということである。ピカチュウはもっふもふの外見をしているのだが、顔の表情(とくに超注目されている眉間のシワの使い方)とか毛の質感などのCGがなかなか巧みで、ダイナミックで緩急を心得たライアンの台詞回しとよくあっている。話のアラはたくさんあるのだが、可愛いポケモンとライアンの声芸を見ているだけで楽しいのでなんか別に腹は立たないし、どうも満足したような気分で映画館を出られる。なかなかズルい映画である。なお、ルーシーがシンシアと話すところでベクデル・テストはパスする。

 

 あと、これは私がポケモンのことを全く知らないのでよくわからなかったのかもしれないのだが、ライムシティの中で仲間としてポケモンが欲しくなった時はどうするのだろう?序盤でルーシーがティムに、ポケモンのパートナーはいないのかたずねて、次に会った時にはティムがピカチュウを連れているのを見て喜んでいたので、ライムシティ内でポケモンを仲間にする方法は存在する…はずだ。しかしながら、設定によるとライムシティ内のポケモンは野生ではなく、野生でないならば勝手にモンスターボールでつかまえてはいけないはずだと思われる。ライムシティはヴィジュアル的にもかなり魅力があるのだが、設定がそんなにちゃんと描かれていなくて、原作のゲームをしたことがない初心者にはよくわからないのが少し残念だった。