家族に頼らない子ども映画~『ミニオンズ フィーバー』

 『ミニオンズ フィーバー』を見た。

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 舞台は70年代である。怪盗グルー(スティーヴ・カレル)の子ども時代を描いたプリークェルである。ミニオンズたちと暮らしている11歳のグルーは悪党に憧れて、空きの出た悪党一味であるヴィシャス6のオーディションに向かう。そこで冷淡な扱いを受けたグルーは、腹いせにヴィシャス6から神秘的な力のあるゾディアックストーンを盗むが…

 日本語の副題「フィーバー」はけっこう内容に合っており、70年代が舞台でディスコミュージックがふんだんに使われている。ミニオンズシリーズだけあって音楽は相変わらず凝っており、リンダ・ロンシュタットの「悪いあなた」が合い言葉みたいに使われている。ヴィシャス6の悪党のひとりであるベル・ボトム(タラジ・P・ヘンソン)がブラックスプロイテーション映画のヒロインみたいなオシャレなワルだったり、RZAが70年代のこれまたファッショナブルなバイカーの声をあてていたり、ペットロックが流行っていたり、70年代のボンド映画やカンフー映画へのちょっとしたオマージュがあったり、当時の風俗がたっぷり取り入れられている。ヴィシャス6はジャン=クロード・ヴァン・ダムドルフ・ラングレンダニー・トレホアラン・アーキンなどが声をあてていて豪華なのだが、私のお気に入りはヌン・チャック(ルーシー・ロウレス)で、これはヌンチャクを振り回し、火を噴くオルガン搭載車を乗り回す悪の修道女である。また、ミシェル・ヨーがサンフランシスコのチャイナタウンで鍼治療院を営んでいるカンフーの師チャウの声をあてている。

 いろいろ荒唐無稽でコミカルな話なのだが、展開として面白いのは、グルーが悪党になりたいという自分に夢(!)にあまり理解のない母親よりも、血はつながっていないが自分のやりたいことを理解してくれるワイルド・ナックルズ(アラン・アーキン)やミニオンズのほうを家族として選んでいるということだ。ディズニーやピクサーの子ども向け映画だと、結局「家族は大事だね」みたいな方向性になってしまうことが多いと思うのだが、本作のグルーはそうではなく、11歳にして70年代サンフランシスコで自分探しをし、新しい家族や友達を選ぶことになる。『怪盗グルーのミニオン大脱走』はわりと「家族は大事だね」寄りの話だったのだが、『ミニオンズ フィーバー』は家族に理解がないならそこに頼らず出て行って、自分を評価してくれる他の人を大事にしたほうがいいという話になっている。こういうある種の冷静さとブラックユーモアのバランスは、怪盗グルーシリーズにはヨーロッパのスタッフがけっこうかかわっているからなのかな…とも思う(アメリカの子ども映画はもっと家族礼賛的なところが強い気がする)。