個人的に全然好みではなかった~『私、オルガ・ヘプナロヴァー』

 『私、オルガ・ヘプナロヴァー』を見てきた。70年代にチェコスロバキアで死刑になったオルガ・ヘプナロヴァーの伝記ものである。おそらくヘプナロヴァーの犯罪は記録にある中でもかなり早いほうの車両突入攻撃だろうと言われている。

 こういう作品を高く評価する人がいるのはわかるのだが、個人的に全然、好みではなかった。とりあえず、まず映像的なところがあまり好きではない。おそらくけっこう低予算で、大きいセットを組むとか既存の建物を大幅に70年代風に装飾するとかができなかったのではないかと思うのだが、引きで広い空間を撮って70年代っぽさがなくなるのを防ぐためか、モノクロでかなり被写体に近づいて撮った場面が多い。このため、映画らしい空間の広がりを感じさせるところがあまり無い画面作りになっている(ちょっと舞台劇みたいだと思った)。私はこういう接近して撮ることで閉塞感を…みたいなアプローチは陳腐な感じがしてそんなにいいと思わないので、見栄えの点で面白くないと思った。

 また、淡々とオルガのクィアなところとかメンタルなトラブルとかを描いているだけで、この種の話にしてはかなり起伏がないのもそんなに好みではない。やりたいことは十分わかるのだが、同じ女性の犯罪者を撮ったものなら『I SHOT ANDY WARHOL / アンディ・ウォーホルを撃った女』とか『モンスター』とかのほうが起伏のある展開だったと思う。編集がかなりアート映画っぽいぶつ切り気味なのも関係しているかもしれない。

 一番気になったのは、今の時点で一切、被害者の視点がない実録犯罪ものを見てもたいしていいとは思えない、ということだ。なんかやたらと男性のシリアルキラーが「興味深い人」みたいに描かれた映画やドラマが出ていることについてはけっこう最近批判があるのだが、そんなにグラマラスには描かれていないとしても、女性(シリアルキラーではなく一度の大量殺人だが)の犯罪者にもそういう傾向がある作品が作られるというのはちょっとどうなのかなと思う。私怨が関係した殺人だとかならまあ興味深くなっても仕方が無い気はするのだが、これは全く知らない人を大量に殺害した実際の事件で、まだ被害者遺族なども生きているかもしれない事件である。そういうところで殺人者だけに注目するのは、そろそろ飽きてきた。このあたりは完全に私の好みの問題で、こういう作品に意義があるのはわかるのだが、趣味として面白いとは思えない。