暗い話とコメディの組み合わせ~『シェイクスピア・ダブルビル』

 新国立劇場で『シェイクスピア・ダブルビル』を見てきた。ウィル・タケットがジェラルディン・ミュシャの音楽に振付をした新作『マクベス』と、フレデリック・アシュトンがメンデルスゾーンの音楽に振付をした定番である『夏の夜の夢』の組み合わせである。前半はかなり陰鬱だが、後半は大変笑える。ただし、両方ともロマンスを重視する作りになっている。

 『マクベス』はけっこうマクベス(奥村康祐)とマクベス夫人(小野絢子)が一緒にいるところが多く、恋愛ものっぽい作りの作品である。王殺しの場面でも原作とは違ってマクベス夫人が始終マクベスの近くにいるし、その後も夫妻が親密そうにしている場面が多い。マクベス夫人はかなり妖艶で、夫のマクベスは妻にぞっこんのようである。ただ、わりとバレエというよりも演劇っぽく自然にお話を伝えることに重点を置いているわりには、マクベス夫人が王殺しの後でそしらぬ顔で戻ってくるところでは、急いで血を洗い流したはずなのにまだちょっと掌が赤くて(全部洗い流すのに時間が足りなかったのか、こすりすぎたのか…)、リアリティの点でそこが気になった。

 『夏の夜の夢』は以前に別の演出で見たことがあるが、コミカルでロマンティックでとても楽しい作品である。縦横無尽に飛び回るパック(石山蓮)はもちろん、森で恋の魔法にかかってしまうボトム(福田圭吾)や恋人たちは動きだけで笑わせてくれるが、一方で森でえらいことがあって目覚めた後、昨夜の出来事を思い出してなんとなく解せない…みたいなちょっと不条理な戸惑いもきちんと表現していてそこが良かった。少しだけ気になったのは、ライサンダー(小川尚宏)が登場時に着ている黒っぽいマントがちょっと大きいしあんまり似合っていないのじゃないか…ということだ。身を隠そうとしているというのと、すぐに森で脱いでハーミア(中島春菜)が寝る時の敷布がわりに使うので、マントを着ている理屈はわかるのだが、あんまり若者らしい衣装ではないし、けっこうデカいので単純に踊りの動きが見えにくい。あと、これは意図的に演出でそうしているのだと思うので私の好みの問題なのだが、オーベロン(速水渉悟)が非常に凜々しく堂々とした妖精の王である一方、ティターニア(池田理沙子)はわりと可憐な優しい女性で、ティターニアとボトムのやりとりが可愛く見える一方、ちょっと妖精の王が強引に女王を手玉にとっているように見えるな…という気がした。これは私が普段、ストレートプレイでデカくてセクシーで威厳のあるティターニアを見慣れているからそう思うのかもしれない。