意義のある作品だが、物足りないところも~『ボストン・キラー:消えた絞殺魔』(配信)

 『ボストン・キラー:消えた絞殺魔』をDisney+の配信で見た。1960年代のボストンで実際に起きた有名な連続殺人事件を題材にした歴史ものである。

 『ボストン・レコード・アメリカン』で働くロレッタ(キーラ・ナイトリー)は、女性記者には生活記事ばかりが割り当てられるのに飽き飽きしていた。そんなロレッタはボストンで起こっている女性殺害事件に関連性があるのではないかと疑い始め、これを記事にする。ボストンの警察はこのすっぱ抜きに怒るが、殺人事件は続き、市民の不安は高まる。ロレッタは同僚のジーン(キャリー・クーン)と調査を進める。

 ボストン連続絞殺事件については既にリチャード・フライシャーの『絞殺魔』という先行作があり、これがかなり有名な作品なのだが、犯人と警察がメインだった『絞殺魔』とは全く違うアングルの作品である。本作のテーマは性差別的なボストンの、さらに女性記者を評価しないジャーナリズム界でロレッタとジーンが戦いながら真実に迫ろうとする姿を描くものである。一部、出来事を単純化したり、人を仮名にしたり、時間を短縮したりはしているらしいが、かなり史実に基づいているということだ。

 女性が殺されたというのに警察が鈍感すぎることとか、新聞社が女性記者の写真を客引きに使おうとしていることとか、当時のボストンに横行する性差別がけっこうえぐい感じで描かれている。女性殺しについて警察や検察が非常に鈍いというのは『聖地には蜘蛛が巣を張る』とも共通しており、度合いや現れ方は違ってもやはり世界中で同じようなことがあるんだな…と思った。こうした中で戦うロレッタとジーンの努力が見物で、とくにナイトリーの演技は大変良い。

 一方で同じようにジャーナリストによる猟奇殺人捜査を描いた作品である『ゾディアック』や現在公開中の『聖地には蜘蛛が巣を張る』、やはり女性ジャーナリスト2人による性犯罪に関する調査を描いた『SHE SAID シー・セッド その名を暴け』などに比べると、ちょっと脚本のテンポが悪く、スリリングさが足りないような気はする。何しろ内容がかなりこんがらがっている複雑な事件で、それを史実に沿った形で映画化しているのでしょうがないのかもしれないが(フライシャーの『絞殺魔』は映像的には凝っているが話は比較的すっきり単純にしてあるのでそのぶんわかりやすいと言えばわかりやすい)、繰り返しを減らしてもっと全体をすっきりさせることはできるような気がする。あまり日が当たらないことも多いジャーナリズムによる貢献や女性記者の活躍を描こうという点では非常に意義のある作品なので、このあたりは少し残念である。