擬似家族としてのモータウンとその2人の父~『メイキング・オブ・モータウン』

 『メイキング・オブ・モータウン』を見てきた。60年代に一世を風靡したデトロイトのレーベル、モータウンについてのドキュメンタリー映画である。

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 全体としては、まだご存命の関係者を中心にモータウンの歴史を創設から70年代頃まで辿るというものである。何しろ創業者のベリー・ゴーディ・ジュニアをはじめとしてスターが多数出演し、60年代の会議の録音をはじめとして貴重な史料もたくさん出てくる。いろいろ工夫もあり、デトロイトの自動車工場に影響を受けているというモータウンの仕事の流れや、マーヴィン・ゲイの歌の構成をチャートにするなど、わかりやすい視覚化が行われている。

 このドキュメンタリーのポイントとしては、モータウンを従業員同士が極めて親密な個人的関係で結びついた企業として描き出していることがある。ひとりひとり話を聞くばかりでなく、数人を同じ場所に呼んで話を聞くフッテージを意識的にたくさん使っている。とくに創業者のベリー・ゴーディと、副社長で自身が看板スターのひとりでもあったスモーキー・ロビンソンが思い出話をする映像が大変多く、これでもかというほどベリーとスモーキーの仲の良さを強調している。長年のビジネスパートナーで親友だということで、まるでドツキ漫才みたいにくだらないことで張り合ったかと思えばイチャイチャしているとしか言いようのないくらいお互いを褒め合うなど、それはそれは親密なブロマンスの絆が描写されており、最後のピアノの前のショットなどはBLかと思うような優しさである。

 そしてこのBLかというようなベリーとスモーキーの優しく美しいブロマンスの撮り方は意図的…というか、モータウンのある種の公式社史として(悪いことやヤバそうな話はあまり出てこない)、この映画はモータウンが擬似家族であり、そのトップにいるのがベリーとスモーキーという2人の父親だ、という構造を作ろうとしている。もともとゴーディ一家が始めた家族経営の企業だったのだが、このドキュメンタリーでは結婚離婚を繰り返し、さらにトップスターのひとりだったダイアナ・ロスともややこしい恋仲だったベリーの女性遍歴を隠したいのか、あまり夫婦関係の話はない。むしろベリーとスモーキーを長年連れ添って以心伝心でなんでもわかり、協力して子どもたち(ミュージシャンやスタッフたち)を育てた愛し合う両親みたいに描き出している。これは『ドリームガールズ』などで強引な企業家というあまりよろしくないイメージがついてしまったベリーのイメージ向上のためではないかと思われる。この映画は、ベリーは一見厳しい家父長だが実際は家族を民主的に運営しているお父さん、スモーキーはクリエイティヴなセンスで家族をもり立ててくれるお父さんみたいなイメージで描いている。いろんなところから人が集まってきてめちゃくちゃ優秀な子どもたちが育つわけだが、出世頭のスティーヴィ・ワンダーやマーヴィン・ゲイは父であるベリーの傘から出てクリエイティヴ面での自立をしようとする…ということで、ベリーは映画の中でこういうアーティストたちの実験に横やりを入れたのは今考えると良くなかったという考えを示しており、物わかりのいいお父さんぶりを見せようとしている。

 そういうわけで、ものすごくモータウンの公式社史っぽい映画ではあるのだが、会社の歴史についてとてもわかりやすく、面白く解説しているので見応えはある。とくに興味深かったのは、モータウンでは意志決定できるレベルの役職にかなり女性がいたということだ。有名なモータウンの花嫁学校システム(新人アーティストには必ずいろいろな教養やマナーを教えてから世に出すシステム)を考えたのはゴーディ家の女性陣だったらしい。マナー講師の先生(黒人女性)は単にナイフやフォークがどうとかじゃなく、白人社会で自分に自信を持って王侯貴族とも付き合えるような心構えから教えたらしいのだが、これは今のメイクオーバー番組でよく出てくる自己肯定とか自尊心とかの話にもつながる発想だと思った。

 

ドリームガールズ (字幕版)

ドリームガールズ (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video