1940年代が舞台の上演~メトロポリタンオペラ『マノン・レスコー』(配信)

 メトロポリタンオペラの配信で『マノン・レスコー』を見た。ファビオ・ルイージ指揮、リチャード・エア演出である。2016年に収録された公演である。

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 舞台が1940年のドイツ占領下のパリになっており、衣装や調度などもそういった雰囲気だ。マノン(クリスティーヌ・オポライス)が金持ちの男に誘惑されるあたりはちょっと占領下のパリでドイツの軍人やら金持ちやらになびく女性がいたという話を思い出させる。最後の場面の設定が非常に変わっており、序盤のセットが爆撃か何かでぶっ壊れたみたいなものになっている。ここは恋人たちが戦争に翻弄されていることを表現する一方、序盤ではわりと広い感じだった空間がやたら狭くてごつごつして閉鎖的な空間に変貌しているので、最初はもう少し余裕のある空間で愛し合っていたマノンとデ・グリュー(ロベルト・アラーニャ)が完全に2人の世界に閉じこもっているということを表現したいのかもしれない…のだが、一方でえらく動きづらいセットなので歌手にとっては歌いにくそうだし、ちょっと不必要に息苦しい印象も受ける。セットに比べて歌手が小さく見えるのもあんまり良くないかもしれない。

 正直、マノンのキャラクターについては以前別のプロダクションをメトの配信で見た時同様あんまり感心しなくて、マスネのオペラのほうが良いような気がするのだが、このプロダクションでもマノンはなんだかセクシーで可愛らしいだけでちょっと薄いキャラクターで、オポライスもとにかく綺麗だし歌も安定もしているのだがそれ以上の表情豊かさみたいなのはあまり感じなかった。一方でアラーニャが歌うデ・グリューは大変表情豊かで魅力的である。直前に予定していたヨナス・カウフマンが体調不良で降板してアラーニャはピンチヒッターで入ったらしいのだが、そうとは思えない完成された出来だった。